昨日の朝のことです。
ゴミを出してから出社しようとしてまして(生活感溢れる話だ)、いつもより2本ほど遅い電車に乗るつもりで家を出ました。家中にビールの缶とかちらばってて、とても危険だったもので(^^; 嫌ですね、独り者はどうしてもちらかしてしまって。
で、最寄の駅前についた時のこと。ちょうど...駅のエスカレーターが見えて、今日はずるしてエスカレーターで登っちゃおうかなぁ(普段はダイエットのためなるべく階段を使用)なんて思った瞬間。
視界の隅で何かが崩折れるのが見えました。あれ?と思ってみれば...人が倒れている。
とっさに周りを見渡したのですが、誰も駆け寄らない。悲鳴をあげてる女性は何人もいるのですが、叫んでるだけで近づかない。男もそんな感じ。まぁ、そりゃそうです。とっさにすぐ動けるものではなく、私も一瞬硬直してました。
(誰もいかないのかよ...よし)
一歩。躊躇の後に一歩踏み出した時、ひとりの若者(20代中盤ぐらいでしょうか。雰囲気は大卒2年目ぐらいのサラリーマンといった感じのさわやかな感じの男性)が駆け寄るのが見えました。私も足を早めます。
崩れ落ちたのは...なんというか、一昔前のチーマーというか、カラーの方というか...ヒップホップ系の格好というか...耳にピアス。首からは金のネックレス。体格もまぁ...太めというか私からすると親近感がわくというか、そんな体型の方。
目は焦点あってないというか白目というか...一目で「おかしい」とわかる感じ。
ともかく、急いで呼吸を確認...ない。
一緒に駆け寄った若者に脈をとってもらい、私は心臓音を確認...
やばい、ないよ
...彼の胸につけた私の耳には鼓動を感じられません。
幼い頃、私の周りには消防士のお兄さん達がたくさんいて、いつも遊んでもらってました。その頃おもしろ半分に様々な救命方法を習っています。まぁ、うろ覚えでは仕方ないのですが、先日友人なんかと冗談半分にやり方をGoogleで検索して実際に練習したりしてたのが幸いしました。
「私が心臓マッサージをやります」
私がそう告げると、頷いた若者が黙って気道を確保します。人工呼吸をしようとしてるのがわかりました。
こっちは頭が真っ白気味ですが、出来ることがあるならやらないと。ともかく、力をかけすぎないように心臓マッサージ。
ドン!ドン!ドン!といった感じ。力を入れすぎると骨が折れることもあるそうなのですが、いまいち加減がわからない。一秒よりやや早めぐらいの感覚でやるといいよ...子供の頃のお兄さん達の声を思い出します。ともかく、やるしかない。
私のタイミングに合わせて人工呼吸も始まりました。ともかく、息さえしてくれれば...心臓が動いてくれれば...
夢中で続けるマッサージ。
その時、妙な音が聞こえて、周りを見回します。
心臓マッサージをする私の目に入ってきたのは...携帯を構えて写真を撮る、OLや学生さんの姿。
ピロリン...カシャッ...様々な音が聞こえてきます。
...とっさに動けないのも仕方ない。やり方がわからないなら、手伝えないのも仕方ない。私だってとっさに動けていなかった。けれど...それはないだろう、と。何やってるんだよ、と。
動けるのなら、いいからAED探してこい!
叫びたくなりました。何人かの人が「AEDありませんかー!」と叫んでる声は聞こえてました。最寄の駅にあるはず。そう思ってもこっちは人と話す余裕がありません。
ただひたすら、リズムを刻んで心臓を押します。ある程度やっては人工呼吸に合わせて定期的に心臓音を確認...どれだけそんな事をしていたか。AEDが来る前に、変化が起こりました。
ぶるっ...一瞬の身震いのあと、自発呼吸が。心臓も動き始めました。
たぶん、実際にやってたのはそれほど長い時間ではないんでしょうけれど...思わず、スーツのまま地べたにペタリ。
そのすぐ後に、人をかきわけてくる白衣が見えました。救急車の到着です。後は専門家に任せられる...そう思ったら力ががっくり抜けました。けれど、野次馬が邪魔で、すぐによってきてくれません。聞こえるのはまたしてもシャッター音。
時間を多少間違えていて遅刻寸前かも...なんて友人とメールしていた朝。それがなんでこうなっちゃうのか...
ともかく救急隊員に事情を説明。倒れてからおそらく1分していないタイミングで心臓マッサージと人工呼吸を開始したこと。さっき自発呼吸と確かな心音を確認したこと。それらを告げて、時間を確認すると...
「あ」
遅刻確定。一緒に人工呼吸していた青年も携帯で時間を確認して、「やばっ」という表情に。思わず顔を見合わせてしまいました。倒れた人が救急車に運ばれ、姿が見えなくなった瞬間、私とその若者はそろって走ってました。駅に向かって...
ともかく上司に電話...朝礼直前...まずい。急ぎメールだけ打って、ホームに滑り込んできた電車に乗ります。
そんなに時間がたっていない気がしたのですが、そもそも時間ぎりぎりの電車で行くつもりだったのを忘れてました。
一緒に人工呼吸等してた彼も別車両に飛び込んだのが見えました。
いつもの日常に戻ったのは、たぶんそのタイミング。私もようやく落ち着きを取り戻しはじめます。
混雑する電車の中ですし詰めになりながら、呼吸を整えます。
そして、冷静になった頭に浮かんだのは...さっきの携帯のカメラ音。そして周りで聞こえていた声。
「ミクシィにさぁ」
「今ね、すっごいことがねぇ」
「死んじゃってるかも~怖いねぇ~」
あの時は夢中で...聞こえていても、何も感じなかった声が頭の中で再生されます。断片的ですが、結構きちんと覚えてました。
電車の中で、落ち着きを取り戻しながら...ものすごく悲しい気分に。
あのとき、私が心臓マッサージをしていた人はある意味「死んでいた」わけです。少なくともあの瞬間は。
彼女達は死体をパシャパシャと撮ってるわけで。しかも、下手すればミクシィとかにアップしようと考えてるわけですよ。いかにもかわいそうな表情を顔に張り付かせて。
お前らそんなに死体の写真好きかと。
携帯のカメラ機能が泣いてしまいますよ。
報道カメラマンでもないんだから...そんな、さも悲しそうな表情で、やってることは...なんだろう、うまく言葉に出来ないな。偽善者じゃないけど...なんだろうな。
その悲しそうな顔の裏には奇妙な優越感があるような気がしました。
自分には関係ない風景。所詮他人。
だから、死んでも「かわいそう」なだけ。だから写真をとってもOK。かわいそうな人の、かわいそうな姿をカメラに捉える。
なんだか、悔しいやら、悲しいやら。
もっとも、そんな気持ちになった時にはもう電車の中。ため息をつくことしか出来ません。
落ち着いて時計を見れば...「あ、遅刻の理由」...の一言が口からこぼれます。
「心臓マッサージしてたら遅刻しました」
普通に上司に報告したら...まず信じてくれないです。
『下手な言い訳すんなよ、寝坊だろ?』
そう言われると思ってました。転職したばかりなので、あと半年は有給すら無い身。ここで遅刻は査定に響くなぁ...そんな下世話なこともちょっとは考えました。
けど、まぁ...ともかく。命を助けることはできたのだからいいか、と。
...無責任ですけれど...後遺症が出るかもしれないし、あとあと大変かもしれないけれど、生きていられる方がよっぽどいいよな...そう思いました。本人からすれば別の意見があるかもですが、死んじゃってたらそもそも意見も言えないでしょうしね。
で、会社に出社して。先日の人事変更で直接上司となったばかりの部長に報告したところ。
「お疲れ様でした。大変でしたねぇ」
とねぎらいの言葉。涙が出そうになりました。こっちも中途入社で、まだコミュニケーションがちゃんととれてないと思っていた上司のその言葉で...自分がクタクタだったことを思い出します。思わず足ががくっとなりかけて。
それからちょっと遅れて、いつもお世話になっている部長が見えたので改めて報告。朝、遅れますとメールしたのはこの部長。
「朝から何やってるんだよ(笑)まぁ、お前さんらしいな。ともかくお疲れ!」
笑ってほめてくれました。
...ああ、転職してよかったな、上司に恵まれてるな...そんな風に思えて。
いや、仕事はそろそろ地獄の片鱗が見え始めてるんですけれどね(苦笑)
私ならそういうこともあるだろう、そんな風に思ったらしいですが、だとすると私は普段この上司にどんな目で見られてるのか...ちょっ気にはなるんですけれど。疑われなかっただけでも、かなりうれしいです。
ともかく、朝からバタバタ。まさかゴミを出すために時間をずらしたら、こんな事態になるとは。
人生いろいろあるものです。
直前まで友人とやりとりしていたメールは実にのんきな会話。
今確認してみると、「駄文にゅうすさんに掲載されたよ~」とかそんなやりとり。
その直後がこれですからねぇ...
まぁなんにしろ、彼が助かったのならいいのかな。ちゃんと無事かどうかはわからないけれど。
おいしいモノひとつ食べられなくなるのは、ちょっと悲しいですからねぇ。
見た感じ、夜遊びから帰ってきた若い人っぽかったので...もしかしたら、お酒+徹夜+たばこのコンボだったのかな。そりゃ心臓も悲鳴をあげるでしょう。私の心臓だって...うーん、少しは健康に気を使わないと。
ともかく、大変な朝でした。でも、夜になって強く心に残ったのは...
倒れた人のこと...自分の行動...あれでよかったのか。こんな事書いててなんですけれど、私が言える立場だろうか...そんな思いもあって。でも、脳裏にはあの時の光景がはっきりと残っていて...
何より、ただ野次馬としてむらがりながら、かわいそうかわいそうと言いながら、携帯で写真を撮ってる人達の姿。目に焼き付いてます。
携帯のシャッター音。耳から離れてくれません。
そんなに死体の写真が撮りたいのかよ...その携帯、そんなことのために買ったのかよ...そんな風にも思えて。
そんな使い方をされたら、道具だって悲しいと思うんですけれど。
自分がいつどんな目にあうかわからないのに...同じ目にあって、果たして「かわいそう」ですませられるのか。
ちょっといろいろ考えさせれました。まぁ、私個人は...ともかくあの人が回復してくれればな、それが一番気がかり。
もしまた、同じようなことが起きれば、やっぱり飛び込んでしまうでしょうから...せめて応急処置の勉強ぐらい、もう少しまじめにやっとこうかな...そう思うのです。
※昔からの友人から「なんでお前さんはいろんな目にあいまくるんだ?」と聞かれましたが...
たぶん、理由は「自分から飛び込んじゃうから」です。
今回の件もそう。見て見ぬふりなら、何もない。遅刻もしないし、平穏な一日だったでしょう。
でも...
そこで飛び込んじゃうのが、私らしさなのかな...とも思うので。
やっぱり、今後もいろいろあるんじゃないかな、と。あんましいい思いしたことないですけど、損ばっかりでも...まぁ、何もしないよりはして後悔することにしてますし。また、同じような状況になったら、やっぱり飛び込んで何かしようとするでしょうね(^^;