禁断の果実を再び食べようとするintel...Ultrabookが目指すもの


 今年前半に登場したSandybridgeは予想通りというか下馬評通りというか...順当にその性能が評価され価格の安さも相まって一気にPC用CPUの主役に躍り出ました。
 iシリーズの名を冠しているものの「2nd ジェネレーション」とこっそり?アピールしている通り中身は以前のiシリーズとは別物です。以前の記事にも書きましたがCore2Duoを作り上げたイスラエルチームの渾身の新作がSandybridge。低消費電力と高性能を両立させるべく作り上げた新しい世代のCPUです。
 そして...今年の夏からUltrabokの名前と共に「さらにその先」のCPUの姿が見え始めました。CPUの話は別記事にまとめることにして...
今回はintel目論んだUltrabookと新しい世代のCPUが何を目指しているのかに触れつつ自分なりにまとめてみました。

※あくまでも私個人の考えですので実際のところ現実と違っている部分もあるかと思いますが読み物のひとつとして楽しんでいただければ。

 まずUltrabookについて。
 はっきりとぶっちゃけてしまえば現在のUltrabookは一言で言い表せます。
 それは...

「MacBookAirのWindows版」

 発表されている機種を見てもらえばわかりますが、ほぼ同一のデザインと性能が横並び。性能差は非常に少なく見えますし外観からはMacBookAir(MBA)のパチモノにしか見えません。実はこれにはいろいろな経緯があってのことと思っています。そしてあくまでも「現在の姿」であることを忘れてはいけません(笑)

 そもそものUltrabookのコンセプトは明確です。

「持ち運べる大きさと今までのノートPCに比べたら圧倒的な薄さの実現」
「一度の充電で長時間稼働させることが出来る」
「性能は犠牲にならず比較的高い性能を保持」
「拡張性はUSB3.0等で行い本体は最低限の拡張性を保持する」
「液晶を閉じた時の終了スピードが早く開けた時の復帰も早い」

 という特徴をもった「ノートPC」です。

 ただintelの思惑とは外れて発売するベンダーがどうしてもMBAを意識してしまったことが、intelが出したデザインガイドラインも明らかにMBAに似たものが提示されていたことが、今回の商品達のデザインを決定づけてしまいました。双方共にコンセプトとしてMBAを頭に描いていたのでしょう。

 デザイン的に似てしまったのは2つの要因から。ひとつは特徴的なアイソリューションキーボード。今どきのPCはこのキーボードがトレンドですのでこれは外せない。デザイン性に優れており使い勝手もそう悪くない。そしてコスト的にもここまで主流になればかなり安価に搭載出来ます。
 もうひとつは...アルミボディによる冷却。部品点数を減らして低価格に仕上げるためにもこれは外せないところ。ファンを搭載するにしても本体後方部分が冷却の一助となるのであれば相当負荷をかけても熱の心配を少しは軽減してくれます。
 MBAは案外本体が熱くなるのですがそこはintelを含めたベンダー達も気を使っています。手を置く部分はそんなに熱くならないようひざの上に置いても大丈夫なような設計がされています。

 アルミボディにアイソリューションキーボードを搭載して薄型にしたらそりゃあMBAそっくりになります。ただ実際の製品を触ってみるとMBAとの違いは結構あったりしますのでそこはそれでメーカーの意地が見えたりします。MBAほど割り切った設計にはなってないもので。HDDの交換が許可されていたりメモリの増設が出来たりとWindows機ならではの部分が結構魅力的です。
 MBAはあくまでも「WindowsをMacOSの練習用にインストール出来る」わけですがUltrabookは「Windowsを日常使う人がそのまま環境を持ち出して外で使うことが出来る」ノートPCとして生まれました。

 このUltrabookは...禁断の果実を再び味わいたいintelの思惑が生み出したひとつのブランド。
 その根底にあるのは...かつてintelが生み出したひとつのブランド。

「Centrino(セントリーノ)」

 そしてその心臓部となったPentuimM+チップセット+無線LANの全てが「intelブランド」で固まったPCによる多大な利益という成功経験。そう、セントリーノの夢よもう一度という非常に現実的なプランが生み出したものだと私は考えています。

 そしてそのために作られたのがHaswell。当初の目的から転用されたのがSandybridge。目論みに沿った性能を与えられたのがIvybridgeなんではないかと。

 世界のPCの動向を見ていればわかりますがデスクトップ機はもはや主流ではありません。はっきりとノートPCの時代へと流れています。とはいえやはりオフィスで仕事をする人やゲーマー達はデスクトップ機を好みますし売り上げも馬鹿に出来ません。そんな状況ではもっとintelのCPUを売ろうと思っても絶対的なPCの普及台数を増やさない限り道がない。

 ならば一人に2台づつPCを持ってもらえばいい。

 それがシンプルな回答。
 そのためのUltrabook。メインになりそうな性能を持っているけれどメインPCに使うにはちょっと足りない。ハイパワーや付加機能の追加はデスクトップ機等でやりたくなる...そんな製品。

 AppleがMBAのコンセプトにしている「MacBookPro」との違い(どちらもノートですがコンセプトが明確に違う)を持ち込んでいるようですがちょっと違う。intelはCPU等は作ってもPCは作っていない。デスクトップだろうがノートだろうがPCが売れてintelのCPUやチップセットが売れてくれればいいわけです。Macだってぶっちゃけ売れまくればintelに貢献しますから(笑)
 intelとしては「もっと買ってほしい。もっともっと」な訳で。その思いが生み出したコンセプトなんじゃないでしょうか。

 かつてセントリーノが発表された時ノートPCは爆発的に売れてintelに多大な利益をもたらしました。それはCPUの売り上げもそうでしたがセットとなるチップセットや無線Lanモジュールの利益も多大なもので。それはintel自身の予想を超えた成功となります。
 PCの普及という面でもノートPCに注目が集まった時期でもあり(日本はどうしても狭い家なのでノートPCへ軸足が映るのが早かったですが世界はそうでもなかった)搭載されたPentiumM...ぶっちゃけbaniasコアの性能は概ねユーザーを満足させるに足るものでした。
 まさに「禁断の果実」。一度食べたらやめられないおいしさがユーザーと...intel自身を魅了しました。

 ...そして現在。

 そのセントリーノはいつしか無線Lanのブランドに格下げされてしまっています。
 その代わりに登場したのがUltrabook。

 当初の構想ではもっとintel色の強いものだったと私は考えています。

 intelのCPUを搭載し。
 intelのチップセットを搭載し。
 intelの無線lan+Wimaxモジュールを搭載し。
 intelのSSDを搭載し。

 ともかくintelのパーツだらけのノートPCそれが最初のUrtrabok。そう、禁断の果実よ再び!な訳です。intelのSSDは自作PCユーザーには好まれますしエンタープライズの分野でも注目はされますが...ぶっちゃけintelの思うとおりには売れていない。
 けれどUltrabookに搭載するならより安価にするよ?と持ちかければベンダーも採用してくれます。
 最初は出来れば義務づけたかったけれど...交渉の結果HDDでもいいですよとなってしまった。そんな感じだったんじゃないでしょうか。Ultrabookはintelのパーツで構成しまくると驚くほど安い価格で仕入れられる。それもコンセプトのひとつです。他社の排除を合法的にやるいつもの手ですがちょっと大がかり。

 そして目論みのずれがもうひとつ。それは価格。
 当初intelが思い描いたのは「もう一台買ってもらうための価格」。
 それはおそらく599$~799$ぐらいの価格帯だったんじゃないでしょうか。古い資料等にその痕跡はいくつも見受けられます。最終的には899$ぐらいかな...そう思っていたかもしれません。
 ところがハードベンダーは「そんな価格じゃ利益にならない」として1000$オーバーをintelにつきつけたようです。
 intelはノートPCを作るメーカーではありませんから(笑)実際に販売するベンダーの思惑を制御は出来ない。価格を下げるならもっとパーツ単価を下げてくれと言われてはたまらない。
 そこでHDDの搭載の許可を含めた緩和を行ったのかと。
 ベンダーにもよりますがUltrabookの価格は実際には横並びではありません。今は似た価格のものが出ていますがもう少しするとばらけ始めます。安いメーカーは当初intelが思っていた通りの価格で出してくるでしょうし高い付加価値をつけたメーカーはやや高めの価格帯で勝負してくるでしょう。

 そしてOSやドライバーに踏み込んだ省電力設計もUltrabookの特徴です。
 最初にこのコンセプトの商品を作ろうとintelが考えたのは...形はだいぶ変わってしまったのでしょうけれど...2005年から2006年頃と私は考えています。そのぐらいの時期にはおぼろげながら「消費電力が低いプラットフォーム」について動きをしていた形跡が見え隠れしていますし。
 センリーノの成果がはっきりと見えていた時にぶち当たった壁。それはドライバーやOSといったintel自身ではどうにもならなかった壁。その壁を取り除くのに数年。ようやく「いけそう」になった時...
 intelはひとつCPUにその願いを託します。

 それがHaswell。

 Ultrabookを確かなものにするために。禁断の果実を確実に食べるために。
 intelが作り上げるのは...今までのCPU開発チームの体制では出来なかったCPU。
 Haswellについては別の記事を用意しましたのでそちらを後で掲載します。

 
 MBAのぱくりとか世間ではさんざんな言われようですが...Ultrabookはちょっと考えてさっと出したようなお手軽な商品ではありません。intelが結構時間をかけて育ててきた新しい世代を担うブランドなんではないでしょうか。
 そして冒頭に書いたように...あくまでも現在の姿がそう見えるというだけで。

 本来目指すべき商品は未だ完成せず。それは新しいCPUの登場を待つことになるでしょう。

 難しいことを考えなくてもいいかな...と。
 今までは高くて買えなかった薄型で高速なノートPCがそこそこ安価に...そしていろんなメーカーから出るようになった。今はそう思ってありがたく買ってもいいんじゃないでしょうか(笑)
 その先にある商品は待ってても数年はかかりますし...今買ってもそう損はしないかな。
 私はUltrabookを人に説明する時そのように説明しています。

 今までのノートPCに比べても優れた点はたくさんありますし。発売になったら是非店頭で触ってみて欲しいと思います。
 特に液晶を閉じたり開けたりした時のスピードが速い機種には注目して欲しいかな...と。