AMD FX-8350試用リポート(1)...立ち位置の難しいCPUについて思うこと

AMD_FX

 先日の記事でも紹介したAMDの新型CPUの中でもとびきりパワフルなFX-8350。ある程度使ってみての感想の記事の一発目となります。

 ※このCPUは本来OC(オーバークロック)が楽しいCPUなのですが、諸事情(不幸ともいう)により定格クロックで運用した場合の魅力を確かめる記事へと変更している最中です。
 途中までOCでイヤッホーな記事だったのですが、他のブロガーのみなさんと同じ立ち位置ではうちのブログらしくないな...ということで、バリュー感や他のAMDのCPUとの比較、INTELのi5と比べてどうなのか?という部分に重点をおいて記事を書いて行きます。(と言い訳します)
 ...白状するとまたやり過ぎてパーツぶっ壊してしまいました(涙)
 まーたーやっちゃったーーーー(><)

 最初のこの記事では使用感を中心のこのCPUの立ち位置を考えてみました。

 続く2回目でOC関係の話とベンチマークなどをまじえて性能を中心にした記事を掲載する予定です。
(2回目の記事は年内掲載予定)

 まずこのFX-8350ですが、民生用CPUとしてはなかなか微妙な立ち位置にあるCPUです。
 もちろん8コアの魅力と常用4Gというクロックは話題なわけですが、それでもINTELのi7に届かない性能なわけです。その分お安くなってますので実質のライバルはi5となります。

 そもそも日本の市場がおかしくて、ハイエンドばかりを無意味に求めるユーザーと、性能なんかよくわからないけど安ければいいというユーザーに極化してる感じがします。INTELでいえばi7ばかりもとめる自作ユーザーやハイエンドユーザー、その他の人はCeleron?よくわからないけど安いからそれでいいや。そんな感じです。
 無関心なのか知識を求めようとする気がないのかわかりませんが、他の国々の市場と比べるとちょいと毛色が違います。本当ならINTELのCPUならi5やPentiumが売れ筋なんですが...(いまだにPentiumのブランドは国によっては強い)。

 海外市場ですと人気のあるi5に対抗出来る価格と性能ということで非常に魅力がある製品なのですが、日本においてはユーザーの意識も含めて微妙な感情で見ることになります。いわゆるハイエンド厨と言われる層(使用目的もナニも考えずにともかくスペック市場主義。でも騒ぐだけで実際買ってる人が少なかったりするのも面白い)からしたら期待外れのCPUということになるでしょう。

 ではメーカー製PCに搭載されるかというと、これがまた難しい。日本のメーカーはINTELのブランドがないとトイレにも布団にも入れないんじゃないかというぐらいINTELが怖いしロット単位での単価でバリュー価格やリベートを提示されるとコロっと行く体質なのでAMDが入る余地がなかなかない。

 こと日本においてはこのFX-8350は文字通り「自作ユーザーしか目を向けない」CPUと言ってしまっていいんじゃないでしょうか。

 そうした前提の上で言うと...

1.細かいチューニングが楽しい人にはたまらなく「面白い」
2.価格の割に遊べる
3.既存の環境の置き換えに向いている(AMDユーザーなら)

 と、3つの魅力があると感じました。
 
 まず1ですが、実際OCとか遊び倒して「限界チューニング」をしたい人にはとてつもなく遊べるCPUです。熱量が大きく「どこまで電圧を下げて高クロックを維持出来るか」や「過電圧かけてでも水冷にしてでも高クロックを試したい」人にとってはある意味INTELのiシリーズなんか話にならないぐらいやりがいのあるCPUでしょう。
 なんというか「すぐに熱が上がる」「消費電力が爆発的に増える」という高クロック化の代償をどこまでつきつめて「やれるか」とかやりだすとそれこそずーっとしゃぶってられるCPUです。
 ただしこれをやるにはマザーボードの吟味が必須です。私が試用としていただいたマザーはかなり耐久力のあるCPUであり、結構な無茶にも耐えられました。
 ...が、OC用にチューンされたマザーと高クロック対応のメモリを用意してやればご家庭でオーバー5Gの運用も夢ではありません。(空冷は馬鹿げたクーラーでないとほぼ無理なので水冷推奨)
 ただ電源が耐えられないケースもあり...私もそれにあたったのですが、電源とマザーとメモリを一度に失うリスクもあることは忘れないでほしいところです。リスクも含めて「やばいぐらいに遊べる」CPUだと思っていただければ。

 次に2ですが、これはわかりやすいところです。1にも付随しますが価格が安いのはいいことです。
 17000円前後で買えるCPUですが、この価格帯だとi5-3570や3570Kとほぼ拮抗します。マザーの価格もあるので一概には言えませんが、直接のライバルとなら性能は十分以上に戦える。その上で遊べる余地があるというのはうれしいところです。
 ただしi5にはGPUが統合されていますので、その分お得感はi5があると考える向きもあるでしょう。i5-3570KであればHD4000が統合されていますのでトータルコストではi5-3570Kの方がお得になることも(3570のHD2500はついてるとうれしいレベルで判断しています)。
 ゲームユーザーの多いAMD系のユーザーにとってはGPU搭載は最初から考慮済み!...ということならいいんですが、最初はトータルコストを押さえてゲームより普通に使うことが多い...という人はi5-3570Kの方がオススメだったりします。
 ただ「遊ぶ」のなら断然FX-8350をオススメしておきます。機材をそろえてきちっとやるとなかなかのじゃじゃ馬ですが価格以上に遊べるCPUであることがわかるでしょう。

 最後に3ですが、これはAM3+マザーを持っている人向けの話。今までのAMDの系譜で来た人にとってはBIOSアップで手に入る最高性能のCPUということになります。投資が少なくて済みますしうれしい話。以前の記事にも書きましたが、これはFM2ソケット用のCPUではなくAM3+用のCPUなのですからありがたく活用させて欲しいところです。

 で、魅力はいいんですが欠点は?ということで...

A.内蔵GPUがない分コスト的にそれほどお得感がない場合がある
B.OCはいいが思ったより余力がない
C.OC時の発熱と消費電力がなかなかすごい

 といったところ。

 まずAですが、これは上に書いたi5-3570Kの存在が大きいところ。少し価格差があるのですが、ここはマザーの価格差で吸収出来る範囲だったりします。ほぼ同額(数千円差)ですのでなんとも難しい。外部GPU増設の場合は気にならないのですが、そうでない場合はちょっと辛い。A10-5800K等のバリュー感ほどにはお得感はないのかも?と思うところです。
 純粋にCPUとしての価格でいえばもう少しこなれて15000円を切ってきたらかなりのお買い得CPUになるのですが、まだまだ出たばかりのCPUですから。

 次にBですが、私がいただいた個体の問題かもしれませんが、定格では4.2G常用が精一杯。これは通常4GのCPUとしては寂しい限りでした。マザーを変更してちょいと電圧を盛ってあげたところ4.5Gで動きましたが...
 そしてCにつながるわけですが、正直通常運用でも負荷をかけると熱量はぐあっとあがってきます。純粋なCPUとしても消費電力は「おいおい」というぐらい高いのですが、これをOCするとどうなるか。
 発熱は90度を軽く超え(KABUTO2使用)、消費電力は300W(CPU単体で)となんというか耐久テストをやってる気分になってきたりもします。
 なんでこうなるかといえばひとえにAMDの製造委託先であるGLOBALFOUNDRIESの問題であり、じゃあINTELはそうならないのはなんで?と言われたら「INTELの製造技術がすごいから。進歩してるから」としか言いようがない現状があります。これはARMなCPUの未来にも言えますが、正直INTELだけが2世代は進んでしまっているような製造現場。

 AMDが頼んでいるGLOBALFOUNDRIES (グローバルファウンドリーズ)が新しい製造プロセスの立ち上げにつまづいている中でAMDとして出来る限りの改良を加えたのがFX-8350に搭載されたPiledriverコアなわけですが、性能はともかく消費電力やクロックの余力はどうしたって不利。

 いろいろなブログや記事でGFはふがいないとかいろいろ見受けられたのですが、いまやGFは世界2位(1位はTSMC)のファウンドリです。その会社が苦しんでいるということは他社だって似たようなものです。(サムスンやTSMCだって苦しんでいる)
 そうした中ではふがいないというより「INTELが飛び抜けている」という方が正解な気がします。というかIBM系ファウンダリが苦しみまくってるのも事実なんですけれど。INTELが一世代前に導入した技術がまだ導入出来ない。ファウンダリの人々の方が辛い事態かもしれません。

 苦肉の策で計画をすっ飛ばして一気に次世代へ...なんてやってますが、そんな無茶をすれば製造予定だって製品にも影響が出てくる。2013年一杯はこの混乱が続くでしょう。予定されていた製品があちこちの会社でキャンセルになってたりしますし。

 AMDだけの事情ではないんですが、設計でどんなに頑張っても現実の形に出来ないのでは意味がない。その中でどうやっていくかが来年の課題のひとつでしょう。それはnvidia等も同じ。(INTELが他社の製品の製造に乗り出さない限り)
 とはいえユーザーからしてみたらそんな事情は関係なく。INTELが出来ているのだから他社もやれ!という気持ちが強いんでしょうね...

 私的にはそこまで無理を言う気はないんですが(それならINTELの製品おとなしく買ってろとは言うけれど)、そうした背景があっての不利はこのFX-8350にもある。それが発熱と消費電力に露骨に出てしまったと。
 まぁ、i7やi5だってちょいと電圧盛って高クロックにすると発熱はかなり「やばい」ことになりますが。Sandyなi7あたりをちょいと4.7Gとかで回すとそこには素敵な発熱が。(やるなら覚悟を決めてまずは4.5Gから挑戦しましょう)

 で、そうしたいいところも悪いところもひっくるめて考えると...このCPUの立ち位置はものすごく難しい。居場所が少ないCPUといえるでしょう。
 
 既存のAMDユーザーが今までのCPUからの載せ替えで選ぶなら迷うことはない、いっちゃえいっちゃえ!と言いたいんですが(笑)マザーから買い換えていくとなると...うーんどうだろう。
 定格運用した場合の魅力はあるにはあるんですが(エクセルのシートをたくさん開きまくってもそんなに影響がなかったり、その中で複雑な計算式を埋め込んでも下手なi5より高速に動いてみたり)、結構負荷をかけた時に真価が出る感じでして。ふつーに使うとなると...どうかなーと。
 
 エンコードに向いているかというと使用ソフトによります。少なくとも私が愛用しているペガシス製品では...遅いです。i3にすら負けるシーンが多発するほどに。最適化されてないとはいえこれは辛い(苦笑)
 海外製のマルチコア対応のエンコードソフトを使用したところそこまでの差がなかったので、なんとも。x264でエンコード対決させるとさすがの8コアの力を見せてくれたりもしたんですが...
(ぶっちゃけINTELのハードウェアエンコードON状態だとかなり高速にエンコード出来るので、H264系でやるなら今のところINTELのiシリーズ+ペガシス製品でかなりの人が満足出来るかなーと。Powerシリーズとか使うとまた違った評価も。

 バリュー感では...正直i5-3570Kの方がバリュー感があります。
 内蔵されたHD4000の分お得って感じでしょうか。

 純粋にCPU同士でみた場合は...ベンチマークはともかく体感ではFX-8350に軍配を上げたいところです。
 ソフトの多重起動、メモリ16Gほどをかつかつに使うよう64bitアプリを多用...などとわけのわからないテストをしましたが、それでも耐えきって快適だったFX-8350は結構頑張ってたかなと。
(i5-3570Kも早かったので差は少ないんですが、やはりひっかかるシーンが出てきてしまったので)

 ただバリューということでいえば同じAMDのA10-5800Kがあまりに圧倒的なバリュー感を持っているので正直難しい。

「FX-8350の本当のライバルはA10-5800Kじゃないのか?」

 これが今回試用して見ての正直な感想でした。

 使用機材は次の記事にきちんと書きますが、FX-8350+Radeon6850の構成でいろいろ遊んでみた後にA10-5800Kに触ると...「別にこれで普段はいいんじゃないだろうか...」という思いに何度も囚われました。

 ゲームをするならFX-8350+GPUの方が圧倒的に優位だとは思うのですが、昨今の重いゲームを遊ばない人にとってはA10-5800Kが最も最適解なのではないかと。それでもう少し予算があるのならi5-3570Kを買う。この辺りが私のブログ的にオススメなんじゃないか?と強く思う結果になりました。

 GPU増強前提で考えるとINTELにはより性能の高いi7が存在しますので、スペックを突き詰めると不利な部分が出てくるのですが、ある程度の予算内で...と考えた時にはFX-8350は選択肢として「アリ」なCPUです。

 GPUに予算を割いてCPUの予算を削りたい時には実にうれしい製品でしょう。
 トータルコストをどう捉えるかで立ち位置が変わってくる。
 難しい立ち位置のCPUだと本当に強く思います。
 性能は決して悪くないので価格性能比で考えれば居場所はある。
 けれど、今はまだ狭い。
 
 価格がもう少しだけ下がってくれれば。
 製造プロセスが進んだ製品が出てくれれば。

 今のところは無念さが強く出てきますが、値段はたぶんそのうちさがってくる。

 発熱等に関してはややクロックを下げたモデルで95W版が出てきますからそちらを選択するのも手でしょう。何もシリーズで最高クロックのものを買うばかりが選び方ではないですし。
 自分にあった製品を選ぶのも買い方のひとつです(^^)
 

 リポートの1発目は「立ち位置」を考えてこの製品についての感想リポートとしました。

 次に性能面をもう少し細かく見た上で「FX-8350を定格運用した場合のPCの魅力」を考えてみようと思っています。
 A10-5800Kを試した時の機材を流用して、「既存のPCのパワーアップを考えた時、選択肢としてのFX-8350は」を考えた記事になる予定です。
(なので機材的には最新のものではなく、ちょっと前のPCのパーツを流用しつつバージョンアップした...という想定になります)

※数日前にパーツ破損してしまった際SSDの中身をさらに吹き飛ばしてしまったためベンマーク等取り直しになってしまいました。とほほ。5Gで動かした際のベンチマークとか他のかったのですが、あれ常用するにはもう少し冷却系をいいものにしないといけないので意味ないかなーと。長時間駆動させるには冷却がどうにも厳しい...液体窒素とか欲しくなるほど。

 他のプロガーの方が4.5G等のベンチマークを出していますので、そちらを参考にしていただければ。
 ...うーん電圧1.5Vまでは安定でいけてたんだけど、ちょっと盛りすぎたかなぁ...電源巻き込んでマザーも壊れてしまうとは。A10の時もそうですがどうも私はOCをする際「やり過ぎ」になる人みたいです。マザー貸してくれてたM・Yさんまじでごめんなさい。お詫びはそのうちしますので。