ついに頂点に立つ「世界最強のコストカッターにして世界最強の経営者」...ティム・クック(2)

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ついにこの日が来ました。

「AppleのCEOとして、私自身がその職務と期待に応えることができなくなったときには、みなさまに最初にお伝えするということは、これまで常にお伝えしてきました。残念ですがその日がやってきました」...スティーブジョブズ


スティーブ・ジョブズがAppleのCEOを辞任するその時。後継に推薦されたのは...やはりあの男。
 ティム・クック

 ついに彼はAppleの頂点へと到達することに。
 先日の記事では彼の魅力と特技についてお伝えしましたが、その中に出てきた「部品調達」...在庫管理も含めた製品の納期や出荷のコントロールに欠かせない部品調達と「世界最高」と呼ばれる「攻めのコストカット」のやり方。
 今回はティム・クックの非凡さについての記事になります。


 コストカッターと呼ばれる人たちは欧米では結構たくさんいて、日本でもしばしば名前があがる人もいるんですが...実際にはどんなことをする人かと言うと名前の通り「無駄なコストを削減(カット)する」わけです。

 リストラ。事業の統廃合。商品ラインナップの削減。実に様々なアプローチがありますが、どちらかと言えば守りのコストカットが主体です。無駄な経費を削って出来たリソースを有益な分野に投下する。人的リソースも含めて適材適所に配置することで効果を出す。それがコストカッターの役割。

 日産自動車を立て直したカルロス・ゴーン氏なんかは日本でも有名ですがあの人もコストカッターとして大変有能な人です(経営者としても当然すごい。というかゴーン氏の異名がもともとコストカッターだったような)。悪口を言われがちな役割なのですが、企業が大きくなるとどうしてもそうした「無駄」な部分を削ぎ落さないと前に進めなかったりピンチを乗り切れなかったりするものです。
 近年の企業にとっては必要悪ととってもいいかもしれません。嫌われつつも企業を立て直す非情の請負人たち。

 実はティム・クックも世界有数のコストカッターです。粘り強いその仕事ぶりはかつてのAppleを救うのに役立ちました。守勢のコストカッターとしても非凡な人なのは間違いないでしょう。

 ですが私が注目するのは「攻めのコストカット」をするティムの姿です。

 Appleが他社に先んじて最新技術を投入した製品を出せるのはなぜか。

 他社が類似商品を出そうとしても価格的にいつも勝てない(あるいは相当無理をしないといけない)のはなぜか。

 ここにティムが仕掛ける「攻めのコストカット」の成果と...彼の技があります。
 その背景には膨大なAppleの現金資産があり...他社の追随を許しません。
 豊富な資金・資産をどう運用するのか...他の企業がなしえなかった技。あるいはやりたくても出来なかった方法。

 それは必要なパーツを作る企業やこれから使いたい有望な技術を持つ企業への積極投資。
 それは独占権の確立を得るための投資。
 豊富な資金を利用したわりと荒っぽい方法です。
 
 優しさだけではないティムのもうひとつの顔がここにあります。

 例えば...仮の話ですがこれから出るであろう新型iPadのための仕様を策定したとします。
 高精細なディスプレイを搭載して非常に高速なプロセッサを搭載して...あるいは市場の予想もつかない何かを搭載しているかもしれません。
 当然リスクヘッジを考えて複数の会社にパーツの発注をするでしょう。ここまではどこの会社でもやることですが、Appleは...ティムはひと味違います。

 Appleのためにパーツを作ることを優先させるために...取引先に資金を投じて工場を新たに作らせる。
 ただの発注主から一歩踏み込んで共同で新たな技術を...製品を投入するためのパートナーとなる。銀行からの融資すら必要とせず膨れ上がった巨大な現金資産を惜しみなくつぎ込んでそれを行う。

 取引先の企業からしてみると...

 1.工場を増設・新設するのにはとてつもない資金が必要
 2.顧客が安定的についてくれるかわからない
 3.作った製品が受け入れられるか自社で努力しなければならない

 という状態が

 1.工場のための資金についてはある程度面倒みてもらえる
 2.顧客はすでにいる
 3.安定的にその顧客が製品を一定数購入してくれる

 という状態になるわけです。もちろんデメリットもありまして...

 3年程度はAppleのためだけにその製品を供給しなければならない。
 とか
 その3年程度がすぎた後もディスカウント価格でAppleに製品を提供しなければならない。

 などのデメリットがあります。
 とはいえこれだけの不景気で製造業はどこでもつらい時代。デメリットを考えてもAppleの出荷量を考えればぜひにという企業はたくさんあるでしょう。


ここからは勝手な想像と憶測で書いた物語仕立ての内容です。実際の企業やティム・クックはこんな会話してないと思いますがわかりやすくするために大幅に脚色して物語っぽくしてみました(笑)


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ここからは私の勝手な妄想です



S社「うーん...困った。液晶TVがどんどん売れなくなって世界有数と言われたこの工場も今や稼働率が落ちて無残な状態だ...売却したくてもここはうちの基幹工場のひとつだし投資も回収できてない...うーんうーん」

ティム「やあ困ってるようだね。どうだいAppleのために液晶ラインを作ってくれないか。次か...次の次のiPadのために君のところの高精細技術を使った未来の液晶をばんばん使いたいんだ」

S社「え...でもまだ高精細技術は研究中だし...工場だってそう簡単には小さなパネル向きには転換出来ないよ。工場への増資だって銀行からはもう融資が受けられないし...」

ティム「大丈夫だよ。必要な研究資金と工場の改修とラインの増設にはうちの会社が投資しよう。出来上がった商品はうちが独占で数年は使うけどいいだろう?」

S社「え、本当ですか?」

ティム「もちろん。数回にわけてキャッシュで用意しよう。情報の漏えいには十分気を配っておくれよ?うちはそういうところ厳しいからね。箝口令を引くんだ。いいね?」

S社「もちろんですとも。いやぁ助かった。技術は開発したけれどどういった商品に展開するかも含めてこれから検討するところだったんだ。購入する相手も商品も決まっているとなれば弾みもつく。いやぁうちもこれで一息つけるというものです」

ティム「.........そうですか。それでは具体的な契約を詰めましょう...」

とか

T社「うーん困った。液晶部門がやっぱりつらい。韓国や中国企業に後れをとるとは思わなかった...ここまで小規模パネルばかりの需要では今のうちのラインでは...」

ティム「やぁお困りのようですね。どうですか、次のiPad用の液晶をやってみてもらえませんか。以前からメモリの製造などお願いして御社の技術を高く評価しているんですよ。液晶についてもよい付き合いがしたいと思いまして...」

T社「え、それは願ってもない。でもS社さんと取引をしたという話も聞きましたが...」

ティム「あれは次の次か...あるいは次の次の次か。先行投資の意味合いもありますしね。なんにせよ調達先を複数持つのはビジネスの常識です。そんなことは気になされずに。工場のラインに関しては必要な金額を見積もっていただけますか。投資する資金の金額について算出したいので...」

T社「ありがとうございます。この円高の中でどうしようかと思っていたんですよ。たとえ安くても赤字にならずに工場のラインが回ればそれだけでも違う。ぜひお願いしたい」

ティム「...そうですか。それでは守秘義務と具体的な話をしましょうか...」


妄想はここまで
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 なんだかティムがひどく悪人じみて見えますがそれは私の文章力が低いからで実際にはそんなことはありません(苦笑)

 積極的に投資して相手企業にわかりやすい技術目標と生産ラインを提示、必要なら技術者も送って欲しいパーツの調達を約束させます。
 Appleの新製品が革新的でありながら発売日まで秘密のまま...そして発売日には大量にアップルストアに陳列される秘密は実はここにもあります。

 必要なパーツを必要なだけ調達するために取引先企業に切り込む。

 工場への投資などを駆使して低コストでパーツを調達する。

 そう、攻めのコストカッターとはまさにこの部分がキモ。

 こうして得た利益を再び積極的な投資に割り当てていくことで、さらなる強さを得る。

 これがティムの行う「攻めのコストカッター」。積極的に攻めることで結果的にコストを圧縮していく。物流を操り在庫管理を徹底し無駄を抑えたうえでこれをやる。豊富な資金を得たAppleならではの方法であり...ティムでなければ出来ないのではないかと私が考える方法です。
 これにAppleの秘密主義が加わることで商品の魅力をさらに増していくわけで、熱心なユーザーが多いのもうなずけるというものです。
 最近はだいぶ和らいできましたがやはり情報流出には気を使っているのがApple。鉄壁に近い守秘義務のベールの中の新製品はいつもマスコミの注目の的。

 その裏ではさまざまな契約と利益で相手企業をがんじがらめにしたうえで、非常に有利な条件でパーツを調達し...安価に組み立ててくれるFoxconn(フーシーカン。日本だとフォックスコンと呼ばれることがほとんど。ITの厨房や台所と言われる企業で、様々なPCメーカーが製造を委託する世界最大大手の製造会社。Appleも製造を委託している。近年は労働条件の問題で自殺者が相次いだりと話題にはことかかない企業)へと製造を委託。

 必要な時に必要なだけ必要なパーツを調達し...必要な時(発売日)までに製造させる。

 実際にはこれに秘密裏に世界中に流通させるための物流チャンネルがあるのですが、そこもまたティムの手腕が発揮されるところ。物流と在庫管理は密接な関係があるものでして。ティムはそこでも名手としての手腕を発揮しているのです。
 もちろん一人では成し遂げられないわけで、多くな優秀なスタッフを使いこなしているんですが...そこもまた地味に目立たずに...しかし確実に成果を出し続けています。

 難しいコントロールを世界の企業相手に成立させ...ジョブズのマジックを成功させてきた仕掛け人ティム・クック。

 優しさと誠実さでAppleを真に繁栄させた男は、ついにはジョブズの引退をもって世界の頂点へと上り詰めました。
 派手な成果を武器にしたことはなく、いつも控えめ。でもやるときはやる男。しっかりと報酬もいただく男。

 新商品はいつもジョブズが作りあげてきたイメージが強いのですが、実際にはティムの力なくしては素晴らしい商品も製造で行き詰っていたでしょう。

 ジョブズは引退にあたり後継指名を避けて後継を提案する形をとりました。冒頭の記事にもそれは書かれています。懸命な判断でしょう。Appleはジョブズの個人企業ではないのですから。

 それでも世間はティムがCEOに就任したと決定したと報じました。Apple社内からはまだ表立った批判は出ていません。これからも出ない気がします。

 人間関係に非常に気を使うティムのことですからそのあたりの根回しは終わっていることでしょう。

 私は新型iPhoneの発表時にCEOの交代があると予想していました。実際にそのような情報も入ってきていたのですが...実際には本日8月25日(北米では8月24日)にAppleの巨星スティーブ・ジョブズは静かにAppleのCEOから身を引き...会長へと就任することを表明しました。

 なんだよ会長でとどまるのか...そういう声もあります。けれど、実際のところ今までのようにはAppleの経営に関わることはなく...新製品の開発などに手を出しつつ自らの体の治療や教育に関わる様々なことに力を注いで行くのではないでしょうか。

 ティムがいれば大丈夫だ。
 ジョブズのそんな言葉すら聞こえてきます。

 派手な成果や新製品を引っ提げて企業のTOPに上り詰める人はたくさんいます。あるいは他社での業績を武器に移籍する経営者は世界中にごろごろいます。

 しかしティムのような人物はおそらく他にはいません。

 現場を知り経営を知り物流を知り在庫管理を知り...そしてジョブズの知略を知って支えた男。ティム・クック。

 Appleの今後の戦略も含めて世界のPCの行く末は...あるいはティムが下す様々な決定や決断とは無縁ではいられないかもしれません。少なくともマイクロソフトはすでに動いています。ティムがCEOとなったAppleとどう付き合うか。どう戦うか。どう協力するか。バルマーの目は光っていることでしょう。

 かつてはビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの友誼あればこその両社の関係がありました。そして今はスティーブ・バルマーとティム・クックの時代に移ります。驚くほど似た部分を持つ二人のキーマン。彼らが今後どのような決断を下しどのような製品を送り出してくるか。

 世界を動かす人物の中に今日からティム・クックの名が刻まれます。
 そしてスティーブ・ジョブズはゆっくりと伝説となっていくのでしょう。

 お疲れ様ジョブズ。そしてこれからよろしくティム。
 Appleのファンは今日という日を忘れないのではないでしょうか。

2011/08/27追記
 私はスティーブより相性っぽく彼が呼ばれるときのスティーブンに近い発音が好きでそう記述していたのですが、あまりにもたくさんの苦情が来ましたのでブログ内のジョブズの全記事を修正しました。ご指摘ありがとうございました。