耳を傾ける相手を間違えちゃいけない...とある社長の言葉から ~批判と言う言葉に思う

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:
  


 ゲーム批判の話が先日ツイッターであった。
 ゲームの品質とか、何がよいゲームなのか。
 まぁそんな話だ。よくある話。

 その言葉を聞いた時、ふと昔の言葉を思い出した。胸に染みている言葉を思い出した。
 俺の心にはエロゲ流通で有名な会社の創業者、Y田社長の言葉が染みている。

 社長はこう言った。

「批判とかさ。
金払わねえやつが言うんだ。
だから無視していい。
金を払うやつが客だ。
客はちゃんと見るんだ。
客じゃないやつはどうでもいい。
耳を傾けるのは客の声だけでいいんだよ」



 まだ駆け出しの若造だった俺は、いいソフトが出せれば売れる、客がついてくると力説したが、社長は一笑して笑い飛ばした。
 ゲームでもビジネスソフトでもそんなんじゃ商売にならないと笑った。

「いいゲームってのはなんだ?
 金を払う客が喜ぶゲームだ。
 つまり売れたゲームが流通にとってはいいゲームで、客にとってもいいゲームだ。
 作り手はその間で折り合いつけて食うんだよ。
 だから売れると思えば流通は金を前払いだってする。いいゲームだからさ」

 そういって社長は喫茶店から取り寄せたコーヒーを飲みながら笑った。
 若造の熱っぽい言葉など、社長の前では鼻くそにもならなかった。
 そして、金とか売り上げだけじゃないんじゃないかと青臭く語ったが、社長は笑うだけだった。
 流通にとってはそんなものどうでもいいことだよと。

 目利き。
 見る目がないと、流通はやっていけないんだよって、笑ってない目で笑った。

「前に。
 チャンピオンの社長が廃業するなんていうから、馬鹿言うなって言ったんだよ。
 あんたんとこは売れるだろうって。今はだめでも、いけるはずだって。
 白○さん、知ってるか?関西のさ。
 真面目でこつこつやってる人で...最近じゃ自分でゲームは作らないけど、度量のでかい...けどちっちゃい人なんだけどさ。
 借金したらまじめに利息まできっちり返しきるタイプ。そんな社長だよ。
 真面目だよ。
 ものすごく真面目な人だ。
 いい部下もってるんだ。あの人は。
 今までそんなに売れてなかったけど、エロならいけそうだったし、納期も守れる若いやつらを抱えていた。
 それを辞めるってさ。
 めそめそしてんだよ。
 おいおい馬鹿を言わないでくれって。
 だからさ、言ったんだよ。
 エロやれよって。
 言ってやった。
 部下は嫌がるかもしんないけど、売れたら変わるから。
 売れれば自信がつく。
 そしたら売れるゲームをもっと作ってくれる。
 俺たちも儲かる。
 だからまずさ、やってみようって。
 だからさ、xxxx本買い切りで前払いしてやるから、一息つきなさいって言ったんだよ。
 これが流通の目利きだよ。

 ○○ト企画なんて名前で箱はあったから。
 そこでやってもいいし、なんか会社名とは違うブランド名でもいいからがんばんなよって。
 なんなら買い切りの半分、仕上がったら払ってやろうかって。

 販売前に金払うなんてのは、まぁ普通じゃないんだよ。
 売ってから翌月とか翌々月とかの末に払う。こっちも支払いがあるから。普通はそうさ。

 でもさ、今までの実績とか。
 きちんと仕事してきたんだよ白○さんは。
 だから俺は部下もそうだけど、白○さん本人に貸すつもりで金出すって言ったんだ。
 完成したら金出してやるから、それで給料払えばいいじゃないかって。

 あいつらは流通にとっていいゲーム作る奴らだって思ったから、投資だよな。
 そしたら売れたよ、二本出したうちの一本がさ。
 すげえ売れた。思わずやったって思ったね。賭けに勝った気分。
 いやあ、うちも儲けさせてもらったよ。
 うちの若いやつは儲からないって言ってたけどすっかり黙っちゃってさ。気分よかったよ。

 ちゃんと見てればわかるんだよ。臭いがする。
 金を返せるやつには貸せる。出せる。

 いいゲームを作るやつらってのは、それがある。

 一回売れるゲームを作るだけならまぁたまに出るかもしれない。
 けど、ちゃんと売れるゲームを、いいゲームを作り続けるやつを見つけないと、俺たちは喰っていけない。
 極端な話、絵が一枚入ってるフロッピーだけの箱で、それが売れまくるなら俺たちにはいいゲームだし、客にもいいゲームだよ。

 作るやつは納得しないかもしれないけど、客が喜んで文句言わないならそれはいいゲームだろ?
 客の言葉はちゃあんと聞くんだ。真面目に。真摯に。だって金払ってくれるんだから。聞く相手は間違えちゃだめだ。声が大きい方じゃないんだよ。

 批判ってのは金も出さないでフロッピーに複製してさ。
 それでギャーギャー言う金を払わないやつの言葉。
 文句とか、要望ってのは金はらって無駄にでかい箱のゲーム買ってくれた客の言葉。
 間違っちゃいけない。

 批判とかさ。金払わねえやつが言うんだ。だから無視していい。
 金を払うやつが客だ。
 客はちゃんと見るんだ。
 客じゃないやつはどうでもいい。
 耳を傾けるのは客の声だけでいいんだよ。
 そうしたら商売はうまく行く。
 売る側も、作る側も、買う側も幸せになる。

 いい商売だろう?

 この話を白○さんにもしたんだけど、部下には言わなかったんじゃないかな。
 恥ずかしがり屋さんだからさ。

 だからさ、客見るんだよ。
 金を払う客を見るんだ。
 文句言うやつはたいてい買ってないんだ。
 ちょいちょいとコピーだよ。
 だから無視出来るんだ。ゲームでもなんでも商品はそうさ

 懐かしい言葉だけど、今でも俺の胸から離れないよなあ...と。
 いい人だった。

 今ご存命かはわからないけれど。

 笑っても目が絶対笑わない人だったけど。

 同じ頃、ソフトバンクの孫社長も似たことを言っていたが、もっと苛烈だった。
 朝、取引のために事務所に行ったら、なにやら朝礼中だった。
 いつかこういうことをして何億も稼ぐんだと熱く演説していた。

 正直引いたが、その後全て実現したと思う。
 流通の人なのに、すでに金融とか先々やるのだと語っていた。
 当時の社員はもう誰もいないかもしれないけれど、あの人はずっと前からビジョンはもっていたんだろうと思う。

 まあ、古い話だ。

 チャンピオンと呼ばれていたのはチャンピオンソフト。
 今のアリスソフトであり、社長が語った、あの時発売されて売れたエロゲーのタイトルは「ランス」。

 もう一本の売れなかったのはなんだろう。
 もう忘れてしまったけれど。

 流通会社が、まだマンションの小さな部屋でやってた頃の、古い...古い話。30年近く前の、古い話。
 ゲームでもビジネスソフトでも、批判気にせず売りなよって笑う社長を覚えている。駆け出しの若造にかける言葉はちっとも優しくなかったけれど。

 もっとも、その後いろんな人に話を聞いて、上記に書いたエピソードのどこまでが本当なのかイマイチ信じられなかったりもしたんだけれど。

 恩着せがましく言ってたけれど、実際にチャンピオンソフトの社長(今は会長)に聞いたら「とんでもない話が全然違う」って言われるかもしれない。たぶん言われると思う。
 おそらくそうとう膨らませて社長は自分を主役にしてる話なんだと思う。

 けれど、批判とか、批評とか。
 そうしたものに対しての言葉としては胸の中に刻まれて今も残っている。
 アリスソフトの方はもし会長に聞けたら聞いてみて欲しい気がする。
 たぶん「嘘ばっかりだよその話!」と言われるんじゃないだろうか。
 そもそも掛け率も相当低かったんじゃないだろうかとか、今だと思うんだけれど。ぶっちゃけ買いたたいて、現金払いしただけなんじゃとか。
 いい話風に言ってるけど実際どうなんだろうって、思ったりもする。

 でもまぁ、それは後から思ったことで。

 それでも、なんか胸に残る話だったし。
 若かった自分にはすごく衝撃的で...胸に刻まれた話だった。
 あの社長にはいろいろ勉強させてもらったと思う。いい意味でも悪い意味でも。

 憎めない社長だった。
 器のでかい人で、でもかなりのケチ。
 商売ってものをよく知ってる人だったと思う。
 よく笑っていたけれど、一度だって目が笑っていたことはなかった。

 あれから30年近くが過ぎて。

 ネットでゲームの批判する人を見る度に。
 批判という言葉を見る度に。
 ふと、社長の言葉を思い出す。

 今では買った人全てに喜ばれるゲームを作るなんて無理だとは思うんだけれど。
 それでも。

 思い入れだけではなく。
 しっかりと金を払った客に楽しんでもらうためにゲームは作られているだろうか。
 売られているのだろうか。

 面白いって言葉は複雑で。
 人によって違うんだろうけれど。
 きちんと金を払って買ったユーザーの言葉は聞いてくれているだろうか。

 買わずにネットの評判だけで叩いている人の言葉は聞かなくていいと思うけれど。
 まとめサイトの記事とか読むと、本当にもうあれなんだけれど。
 むしろそんな人が多くなってる昨今かもしれないけれど。
 けれどづくしで。
 でも、あの言葉は今でも身に染みている。

「批判とかさ。
金払わねえやつが言うんだ。
だから無視していい。
金を払うやつが客だ。
客はちゃんと見るんだ。
客じゃないやつはどうでもいい。
耳を傾けるのは客の声だけでいいんだよ」


 ゲーム以外でも、それはきっと正しい言葉の一つだと思っている。ちょっとまぁ...きついしあれなんだけれど。
 今から30年近く前に、台東区のマンションで話されたたわいもない会話。
 それが今でも胸に残っていて。
 俺の人生の中に染みたままになっている。