それは夏の暑い日の一幕 ~あるコンビニオーナーの小話

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 今回の話は実話ではありません。
 繰り返しますが実話ではありません。
 現実に存在するどんなコンビニエンスストアとも関係はありませんし実際にある店舗とも無関係です。
 登場する企業・個人などはすべて架空のもので現実のものとは一切関係ありません。

 上記を含んだ上で下記をお読みください。
 なお内容についてのお問い合わせ・クレームは受け付けておりません。すべて私の妄想ということにしていただければ。
 被害者もおりませんので。
 ただの夏の小話だと思っていただければ。
 それではどうぞ。








 近所のサ○○○が閉店した。オーナーは長らくセ○○○○○○を営んでいたが、働いても働いても働いても儲からない。売上はものすごくあがったのに本部に吸い取られるだけでちっとも利益にならない。
 でも売上はあるしバイトも増やさないと対応出来ない。ところがバイトが集まらなかった。仕方なく夜も昼も自分や家族が出ることで対応した。利益が出てるのはバイトを雇っていない時間の多さからだったと気付いた時、膝から崩れたという。
 知り合いのオーナーと話しをしたところほどほどがよいのではないかということになりサ○○○が紹介された。フ○○○ー○ー○も検討したがどうもセ○○○○○○以上に本部が嫌に思えた。ロ○○○も同様だった。
 セ○○○○○○との契約を切った時も本部は冷たかったという。
 サ○○○へ店舗が改装された。客足は遠のいたがセ○○○○○○よりは楽だった。新製品も少なくバイトもほどほどに集まり損はないがもうけもそれほどない...けど自分たちの負担が減ったと少しほっとした。
 数年でサ○○○がフ○○○ー○ー○に買収されることになった。
 声も出なかったと聞く。
 フ○○○ー○ー○からは改装費など全額出ると報道された。
 ...実態は違っていた。自分たちの負担もまた巨大だった。
 人の教育などはこっちでやらないといけないのだ。確かにいろいろ教えに来てくれるだろう。
 けれどバイトがそれについていけるか受け入れるかは別問題なのだ。
 アルバイト無しではなり立たない商売だとオーナーは強く言った。
 もううんざりだったそうだ。
 コンビニ経営をして人生の後半勝負したつもりだった。
 もう引き返せないところまで来てしまっている。ここで商売を辞めたとして今後どうしたらいいのか。
 今更フ○○○ー○ー○で勝負など無理だ。
 近所にはもともとフ○○○ー○ー○がたくさんあって、サ○○○もたくさんあった。50m間隔で5件もフ○○○ー○ー○が並ぶ立地になってしまってナニを勝負しろというのか。
 何を考えているのか...コンビニ本社などは数字しか見ない奴らばかりだ。
 現場のことなど見もしない。
 憤ってそういいながらさみしそうに笑った。
 新規出店やリニューアルの応援は手厚いという話しだけが救いだったと言っていた。
 応援社員も出すと言われたそうだ。
 おにぎり50円セールなどもある程度は本部がもってくれるよう交渉するような話しも聞けたという。
 契約のまき直しの期日が迫っていた。
 でも心が動かない。
 どうにもならない。
 商売をしようという気概も独立オーナーの夢ももう無残にちぎれて残っていなかったそうだ。
 彼は契約を解除することに決めた。
 少し休もう...そう考えたそうである。
 家族も納得してくれた。散々に苦労をかけてきた。もういいだろうと思った。
 立地はいい。大動脈の幹線道路と地元の大きな街道との交差点からひとつ入ったところでマンションなども多い。
 八百屋などいいかもしれないな...などと冗談まじりにつぶやいたりして気を紛らわしていた。
 店を閉店すると決めてからのサ○○○は冷たかった。いや...すでに相手はフ○○○ー○ー○となっていた。フ○○○ー○ー○の商品が入荷されフ○○○ー○ー○のシステムを使うよう共用された。コピー機なども入れ替えだと言われた。
 店の方でも立ち会いなどしないといけないのだ。負担がないわけがない。
 もううんざりだ。
 商品の入荷をしぼった。弁当は毎日少し。飲み物も半数は空にした。
 せいぜい日持ちするカップ麺などをほんの少しだけ入れてアルバイトも事情を話して徐々に辞めてもらった。
もう何もかもが嫌になっていたと。
 レジには率先して立った。
 もうこれが最後かと思うと少しだけ感傷めいたものがあったのかもしれない。
 減る一方の客。
 それでも来てくれる地元の人達。
「もう辞めちゃうの?次はどこになるの?」
 常連となっている老婆が言う。セ○○○○○○がいいななどと無邪気に笑う。仮面めいた表情でどうかなぁなどとぼかしているが客に対して怒りすら感じるようになっていたようだ。
 これはまずいと自分を責めたりもしたという。
 そんな時知り合いオーナーから紹介があった。会って欲しい人がいるのだと。
 もうコンビニは嫌だよと言ったがコンビニではないという。
 悪い話しではない...そう何度も言われてはまぁ付き合いもあるしな。彼は会うだけ会うことにした。
 それから数ヶ月...


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 今までの苦労ってなんだったんだろうな。
 気分はすっきりとしていた。心は晴れやかだ。
 こんな方法があったのかと思った。
 何で俺はこんなことに気付かなかったのかと何度も首をひねった。
 開業して独立独歩で行くのだと気負い過ぎていたあの時の自分がずっと足を引っぱっていたのかもしれない。
 店は予定通り閉店だ。
 最期まで冷たい態度だったフ○○○ー○ー○に様々な什器などを渡したが本当に最期は人情も何もないなと思った。
 コンビニチェーンの本部なんてものはそんなものかと思った。今まではなんだったんだろう。
 店はもぬけの殻になった。
 彼らもまだ知らない。
 この店がどうなるのか。
 知ったらどうするだろうか。
 少し楽しみになってきた。
 それから1月。
 あの男が再び現れた。
「ようやくですね。今後ともよろしくお願いします」
 スポーツマンらしいさわやかな笑顔。ネクタイはしっかりとしめている。
 信用は出来ないかもしれないが自分に取っては福音を持ってきた救世主だ。おろそかにするつもりはない。
「改装工事は一ヶ月。来月の一日からスタートです。
 店員教育など含めて...そうですね。改装翌月の10日にはオープンとなります」
 契約はすべて終わっている。自分にするべきことはもうない。
 ただ頷くだけだ。
「いい場所です。きっとお客様も喜ぶでしょう」
 そうだな。場所には自信があったんだ。
 ただ何ががうまくいかなかった。
 自分でやるからいけなかったのかもしれない。
 商売をすることにこだわり過ぎたのかもしれない。
「そうそう宣伝用のパネルもつけることになりました」
 セ○○○○○○の時は道路によく見えるよう大きな電光パネルがあったがサ○○○になったときからそれはただのポールと化していたものだった。
 そうか...そうだよな。オープンする時のセ○○○○○○は本当に親身になってくれたんだった。
 サポートもしっかりしていた。いつからあんなになってしまったんだろう。
 毎日新しく押しつけられるキャンペーン。新商品。
 コンピューターのデータとやらで操作される毎日の発注業務。人間なんて必要だったのだろうか...
「大きく赤い看板です。目立ちますよ」
 少しぼぉっとしていると彼はそう言って笑いながら店の完成予想図をノートパソコンで見せてくれた。奇麗だった。
「募集したアルバイトは近所の店で研修を行います。店長になる人間は後日お連れしますがすでに経験ある人間です。安心してください」
 任せるしかない。自分が運営する訳ではないのだ。
 簡単なことだった。気付けばよかったことだった。

『場所だけを貸した方が苦労せず儲かる』

 このことに気付かせてくれたこの男には感謝しかなかった。
「ま○ば○○っ○は今伸びてるみたいですしね」
 そう言うと男はにっこりと笑った。
「ええ。もちろんです。今まで大変だったでしょう。これからは私達が苦労します。
 あなたは少し休んだ方がいい。
 私達が払うお金で私達の店舗で買い物していただけるならそれが一番嬉しいですね」
 それはそうだろう。
 店の上が自宅なんだ。買物が便利になるなら妻も子どもも喜んで買物に行くだろう。階下に行くだけなのだから。
 自分の土地。自分の建物。
 苦労が実ることはなかったけれど。
 自立した時の判断が俺を救っていた。
 立地の良さはこの男も相当に評価していた。そこら辺までは俺の判断も正しかったんだろう。
 近隣の同系列店は少し離れている。
 コンビニではないがスーパーでもない。
 変わった店だと思った。
 だが自分でやらなくていいというのは本当に気楽なことだった。
 子どもももうすぐ独立する。妻と二人暮らすだけなら賃貸収益だけで余裕があるぐらいだ。今までの苦労はなんだったんだろうかと思った。
 もちろん数年ごとに料金見直しはあるとも言われているが、よほど下げてこない限りはそれでもいいと思えた。
 コンビニとはなんだったのか。自分たちは何をしてきたのか。
 そう思いながら大きくため息をついた。
 まずは店の開店を待って...そうだな。
 最初の客を見とどけたら自分も客として店に入ろう。
 そう思った時久しぶりに顔が笑顔になった。
 時代は変わる。
 自分が決断した独立の時はコンビニエンスストアは夢の商売だった。
 今は違う。
 地獄の商売だったと思う。
 では賃貸オーナーはどうなんだろうか。
 これもまた後で後悔するのかもしれない。
 けれど。
 少なくともあんなにしんどい思いはしなくて済むのかなと。
 軽くなった肩を回しながら。去って行く男を見つめていた。
 夏の暑さの中店舗改装をする人達。派遣されてきたイ○ンの人達。
 彼らに冷たい飲み物でも差入しようかな。
 そう思って。ふいに愉快な気分になってきた。
 そうだ少し離れたま○ば○○っ○に行ってみようかな。
 自社の商品をもってこられたら彼らはどんな顔をするだろうか。
 いたずらめいたことを考えて。
 俺は外に出た。


 夏の小話です。
 繰り返しますが実際の店舗・人物・団体とは一切関係ありません。
 ご了承ください。夏の暑い中での...ちょっとした読み物ということで。