iPodから始まった快進撃で一気に持ち直したApple。
スティーブ・ジョブズが戻らなればあのまま歴史の中に消えていたかもしれない企業。それが今やiPhoneやiPadなどを引っ提げて業界をリードする会社として見事に返り咲いています。
そんなアップルの顔といえばやはりジョブズがどうしても頭に浮かびます。
しかし私にとってはAppleを真に復興させたのは...そして今日の躍進を支えているのも「ティム・クック」の力だと思えてなりません。
日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、ティム・クックは現AppleのCOO。つまりアップルのNo2にあたる人です。
ジョブズが病気でいない時や...ジョブズが嫌がる仕事(笑)をすべて引き受けてAppleを支えている人です。
ジョブズが「派手」なのに対してこの人は「地味」な経営者です。あまり目立つ人でもなくて、普段は煌びやかなジョブズの裏方に徹していますが、その能力はまさに「職人」。それもかなり特殊な職人。
雑誌などの記事ではジョブズの後継者なんて言われてますが、経営者としてはむしろティムの方が主役だと思っていいでしょう。そもそもジョブズさんあんまり経営とか在庫管理とか得意じゃない(笑)
ジョブズの本領である商品の開発力についてはあまり表に出てくる人ではありませんが、そちらの方面でも裏方として製造や設計の方に影響力を駆使しています。
実際もう長いことAppleの運営はこのティムが行っているのは有名な話。ジョブズが優れた商品を作り上げようとするとそれを支え...効果的な展開をして在庫を確保し発表から発売までのタイトなスケジュールを可能にしている卓越した手腕をいかんなく発揮。世界同時発売等を可能にするのはこの人の力あってこそです。
実はアップルが多大な収益をあげられるのはこの人の手腕と作り上げた仕組みによるところが大きいかと。(実際には基盤たる人材と世界各地の取引企業との信頼関係がなせる業ですが...)
もともとこの人の最大の能力は「在庫管理」。一見地味なスキルですがどうしてこれを巨大な企業・市場を相手に発揮出来る人など世界にそうはいません。
マイクロソフトもマウスやキーボード...あるいはXBOXなどハードウェアも展開していますが、Appleの場合PCもガジェットもすべて自社で展開している以上ハードウェアの調達から販売までの力は相当に必要です。コストを下げるためにもここに力を注がないのはありえない話。実際iPhoneをはじめとしてすべてのAppleの商品はハードウェアの原価は販売価格より確実に下回り収益性が極めて高いように作られているのですから。
必要な部材を必要なだけ必要な時に揃え、無駄な在庫を残さない。商品を切れさせない能力。
...言うは簡単ですが、新商品への切り替えの時かつてのAppleは不良在庫のバーゲンセールを常にやっていたようなものでした。
ところがティムが入社してしばらくするとそれはなくなり、新製品が出るちょっと前には「あれ、店頭から少し在庫減ってるな」となっていて。新商品は発売日にかなり潤沢な量が世界的に確保されているというサイクルに変わっていたのですから。(とはいえ宣伝とリスクヘッジのためにいつも需要より少ない数しか出荷していませんが)。
もともとはコンパックかどこかで働いていた人ですが、倉庫業務にも精通した職人。経営者としてよりこちらの方の力が際立っている人です。
その能力がさらに異質なのは、既存の商品だけでなく今まさに開発している商品にもそれが出来るということ。新製品のためのパーツ調達から在庫の確保まで実に様々なことに対して非常に優れたバランス感覚と調達・調整を行っています。もちろん一人でやってるわけではないんですが、人を使うのも実にうまい。
シリコンバレーには天才肌の人はたくさんいるんですが、ティムのように穏やかで物腰が柔らかく...そして仕事への情熱を静かに燃やしている人は非常に少ないと思います。野心家ではなく、むしろ目立たない物静かな男。誠実で真面目な男。そして...深夜だろうが早朝だろうが必要な仕事の電話であればすぐに出て対応してくれる男。
「それが必要なことならば別に深夜や早朝に対応するのは苦でもない」
本人はそう言いますが世界でも有数のトップ企業の経営者でそれが出来るのはすごいことです。...目立たないけれど欲望がないわけではなくしっかりと高額なギャラもらってるわけですけれど(笑)それすらも目立たないという...(実はAppleで一番高額な報酬といわれてます。ジョブズは逆にもっとも報酬が少ない)
実際のところ経営のトップなのに誰よりも早く出社して誰よりも遅く帰るワーカホリックで有名なんで、部下としてはたまったもじゃないのかもしれませんが(苦笑)
Appleでもっとも給料が高い男なのに腰は低いは仕事は丁寧だわどんな時間でも対応してくれるわ...とPC業界では珍しいタイプの人間です。
なにより「あの」ジョブズが深く信頼していること。部下たちもしっかりとついていっていること...なによりバラバラになりがちなAppleという会社自体をまとめて統率していること。この最後の一点だけでも素晴らしいことだと思っています。今までのあの会社の歴史を見てると特に(笑)
実力で地位をのぼりつめるところや職人のような緻密さで在庫管理等を行う力。時間にとらわれないで取引先を大事にする姿勢。どこか昔の職人気質の日本人を思わせるところがあったりします。
長らく独身なのがいけないのが世界でもっとも影響力があるゲイに選ばれたりしていますが...それもまた彼の人生を彩るひとつの華なのかもしれません。(強く否定したという話は聞いてないので実際にはそうかもしれませんが...だとしてもティムの人間的魅力にいささかの損なう部分もないでしょう。)
いずれ病気のためか年齢のためか...ジョブズがAppleの看板から降りる時がくるでしょう。...Appleのファンは誰もが皆不安に思うのかもしれません。
けれど私はティムがいるなら大丈夫だと思っています。
ジョブズの影に隠れて見えないけれど...この人もまたジョブズと協力して新商品を作り上げているライトスタッフの一人なんですから。商品開発の段階から提携企業を探り...低コストで短期間に量産する。品質の一定化を図る...様々なことをティムはやりこなしています。
かつてAppleは不良在庫に苦しめられました。しかしティムが入社してから瞬く間にそれは解消され...上層部は気づくのです。やつは只者ではないと。そしてより上の役職に引き上げ...ティムはそこでも力を発揮。さらに上の役職に...
素晴らしい商品を開発したわけでも、大きな成功の立役者というわけでもなく。誠実さと勤勉さ...なにより自分のもてる力をきっちりと使ってティムはAppleのCOOまで上り詰めました。また...その力を認めて引き揚げたジョブズの慧眼もまた素晴らしいのでしょうけれど...ジョブズのことですからなんか別の理由かもしれないんですよね(^^;
よく真面目にこつこつやってればいいことがあるさ...なんて話がありますが、まさにそのやり方でアメリカンドリームを掴み取った男ティム・クック。ジョブズの影として面倒な部分をすべて引き受ける苦労人。業界きっての高収入者。そしてゲイの希望の星。さまざまな評価が彼の頭上に冠せられます。
ジョブズほど華麗で上手なプレゼンはしませんが、商品やプロジェクトの説明もかなり面白かったりします。決してジョークを言わない人ではないので...どうしてもジョブズが目立つので話題には上りませんが...
現在のサムスンとの訴訟合戦でも何やらいろいろと動いているようですので...おそらくは製造委託先等の変更など含めてアジア戦略を練っています。この人がまた日本企業が好きらしく...結構日本の企業とも提携をしています。日経あたりを読んでるとたまにその動きが見えて面白かったりします(^^)
よくAppleの製品のファンを信者なんて言ったりしますが、私はAppleの信者ではありませんがティム・クックの信者ではあるかもしれません。調べれば調べるほど面白く...魅力的な人物です。PC業界にはこうした人がたくさんいて...でも目立っていない。人間的な部分や性格は会ったこともないのでわかりませんが、その手腕や実績は私淑すべき人物としたいと思っています。
機会があればその他の面白い人達も紹介できればな...と思います。
※私淑(ししゅく)...直接に教えは受けないが、ひそかにその人を師と考えて尊敬し、模範として学ぶこと。例)私淑する作家
※最初にこの人のことを調べた時に「おどろくほどスティーブバルマーとかぶる部分があるのにどうしてこうも評価が違うんだろうなぁ」と思ったのは余談です。経営が苦手なTOPに見いだされて経営を任された部分も含めて。バルマーの場合はまぁ...態度が態度なんで仕方ないかもですが(笑)
バルマーもワーカホリックで有名ですからね...なんせ自宅に帰らないことも多いし(^^;
マイクロソフトのTOPはあのぐらいでないと務まらないのかもしれませんね。ただバルマーは時に崩れたところを見せてくれますがティムが崩れたところはあまり見れません。いつだって生真面目な職人のように...Appleを支えている姿ばかりです。...やっぱり日本の町工場の職人気質の人達とどこかダブるものを感じます。
2011/08/25追記
ジョブズが引退を表明し(会長にはとどまる)ついにティムがCEOになる時が来ました。
優しさだけではないすぐれた経営者としての手腕について触れた記事を掲載しましたのでよければそちらもどうぞ。