時代を彩ったかつての名機たち(1)...6809の良さを素直に味わえた名機FM-7


 サーバーからパソコン...スパコンも含めた「すべてのコンピューターが揃うメーカー」富士通。その強烈な自負と自信を支えた黎明期の名機といえば...パソコンではFM-7を外すわけにはいきません。
 今回は往年の名機「FM-7」についてのお話です。


 世の中はすでにWindowsやMacOS、あるいはLinuxといった「高級OS」が主軸になっています。けれどその黎明期...MS-DOSやOS/9。あるいはCP/Mといった8BIT全盛の時代がありました。そして重なるように存在したBASIC標準搭載の時代。
 今のように便利ではなかったけれど「パソコンを操作するためにはプログラムの知識が不可欠だった時代」。
 そんな時代を彩ったかつての名機たちを主観だらけで紹介する記事となります。

 FM-7について説明するにはまずFM-8の存在を抜きには語れません。FM-8は当時のパソコンとしてはとびぬけて性能がよかった(そしてプログラマーからしたらとても面白い)優等生でした。その大きな理由は3つ。大型機並みのDRAM採用による640*200のカラー発色可能な表現能力。究極8BIT CPUと言われた6809の搭載。そしてなにより搭載されたF-BASICの出来がよかったこと。これにつきるでしょう。
 FMシリーズの名前はそもそもこのFujitsu Micro-8...通称FM-8から続く名称です。
 当時のライバル機はSHARPのMZ-80Bや初代PC-8801ですからFM-8の性能がいかに衝撃的だったか。漢字ROMまで用意されていたのは驚きです。市場に好評をもって迎えられたFM-8に富士通は後継機種を生み出すことになります。
 ビジネス機として開発されたFM-11。そして廉価機として開発されたFM-7でした。
 FM-11もビジネス機としては傑作でしたが(特にOS/9ファンからの思い入れもあるかもしれませんね)、やはりちとお高い。パソコンと呼ぶにはまだ高すぎる機種でした。もっとも、そのFM-11の遺伝子はのちにFM-7と再融合してFM77を生み出すのですが、それはまた別の記事で紹介します。

 ともかくFM-7はFM-8の弟分として開発されたのですが、結果的には兄貴分のFM-8を上回る性能をもたされます。機能としてはやや削られた感もあったのですがCPUクロックも上げられむしろ強化された印象が強かったです。
 そして意欲的な価格設定(当時の13万程度で買える価格はまさに破格でした。まぁ、高いっちゃ高いんですが)と性能。人気機種FM-8との互換性もあって市場を席巻します。
 直接のライバルとなったのは...やはり初代PC-8801。まだSR等の型番もつかずビジネス用8BITとしてその価値が認められていた頃です。性能はともかくPC-8801は価格も高くホビー機と呼ぶにはちょっと無理がありました。FM-7との差は約10万円。テープレコーダーとモニターが別売りだったわけで、この差は大きかった。
 3重和音のPSGとはいえ音源を積んでいたのもうれしかったですね。音割れすごかったですが(苦笑)

 FM-7は価格の安さともたされた性能...そしてなにより搭載CPUの6809の強力な処理能力が印象的です。私はどちらかといえばZ80派なんですが、6809をアセンブラでぶん回す(というかがりがりと書いたコードを片っ端から実行していた)とその処理能力と特異さに驚いたものです。
 その系譜はやがて68000というCPUに行きつくのですが、時代はいまだ8BITのCPUが全盛でした。INTELの32BIT CPUでいうとi286がそろそろ発表されたかな...という頃だったかと思います(わりとうろ覚え)。

 富士通の販売網の強さもあってFM-7はかなりの顧客を掴みます。価格的なライバルは...私も愛用していたNECのぱぴこんことPC-6001がある意味でライバルだったかもしれません。10万円を切る価格とふつうのTVに接続出来るパピコンでしたが、その1クラス上の価格帯でこの性能はやはりうらやましかったものです。

 6809を豪勢に2つも搭載していたのが面白かったのですが(片方は画像処理用)、オプションでZ80を搭載出来なくもなかったので...やろうと思えば当時の8BIT機で出来ることはなんでもできたかもしれません。(だからCP/Mとかも扱えた。OS/9とCP/Mをひとつの機種で勉強できるのを自慢された覚えもあります)
 友人の兄貴がこのFM-7に惚れ込んでプログラムテクニックを駆使しまくっていたのを覚えています。テキスト画面をもたないがゆえの遅さをカバーするプログラムを作ったりして雑誌に投稿していました。たぶんOh! FMかマイコンBASICマガジンでしょうね...時代的に。

 6809は当時の8BIT CPUとしてみると非常に強力なCPUでした。私はZ80をメインにやってましたが、触れてみると「こいつはすごい」と感じられる面白いCPUでした。

 ただ慣れが必要というか非常に癖が強いCPUかもしれません。命令といいアドレスの扱いといい...高度なことが出来る反面このCPUに特化して作りこんでしまうと移植が難しかった(^^;
 Z80から移植する時も結構苦労して落とし込んでいた記憶があります。それでも面白いCPUでしたしそのCPUの良さを素直に味わえた名機だと思います。ここでの下地があると68000を触るときに地味に役立ったりしましたが...まぁそれは余談ということで。レジスタ回りも含めて思いで深いCPU...そして本体です。

 F-BASICがかなりよく出来ていたので、無理にアセンブラで組まなければスピードはともかく他機種からBASICの移植は特に苦労しなかった(あくまでも私の場合ですが)のがありがたかったです。F-BASICはその後も進歩を続けていく味わい深い存在だったり。


 その後ライバルの低価格化と性能向上に伴いさらに廉価になったFM NEW-7が発表になります。10万円を切る衝撃は大きかった。(99800円。ただし性能は変わらず)

 当時のPCを購入する層といえばゲームを楽しみたいかプログラムを楽しみたいか...という感じの人たちでしたが明確にわかれていたわけでもなく...ゲームを遊ぶにもプログラムの知識が必要だった時代だったかと。

 その中でもFM-7で育ったプログラマーはとても「濃い」人たちが揃っていました。のちのX68000やFM-TOWNSで返り咲いたこの人たちの手腕は...なんというか「もっと濃くなってました」というか。すごい人たちを育てたんだな...と思ってしまったり。

 メーカーも違いますし中身もまるで違うのですが、SHARPのX68000がこのFM-7の系譜を継いでいる気がしないでもないです。6809と68000の違いはあれど...OS/9の存在とかまぁいろいろと。(テキスト画面といいつつVRAMに描画してるあたりもちょっとばかり気になるところ。X68000はテキストVRAMを別に持っていましたが...)

 そうFM-7の魅力は多彩なOSが扱えるところでもありました。CPUの増設カードによりCP/MやOS/9がひとつの機種で動きました。
 F-BASICはなかなかに強力。勉強しようと思えばこれほど楽しい教材はなかったでしょう。

 ライバル機種の強化にともないFM-7もパワーアップします。NEW-7と同時発表となったFM-77。FM-11の遺伝子が再び合流した豪華なFM-7の後継機。
 その名前が再び輝くのはFM77AVの発売の時でしょうか。この機種についてはまた別の紹介記事を用意しています。

 時代が移り変わり...16BIT機が主軸となっていきホビーパソコンの座も16BIT機へと移り...ライバルPC-8801もまたPC-9801にその座を譲っていく中...
 FM-7もひっそりとその姿を消していきました。

 往年の名機であり数々のプログラマーを育てたFM-7。
 私の記憶の中では6809の勉強をするのに最高のパソコンだったイメージです。
 音割れがひどかったり熱かったりといろいろと面白いハードでした。私はついに所有することはなかったのですが、先に書いた友人の兄貴が熱心に勧めてくれたため遊びに行ってはプログラムを打ち込んでテープにセーブしていた記憶があります。
 おかげで自宅に帰ってN88-BASICに触ると混乱するという笑えない逸話もあったのですが...まぁいい思いでです。
 この時FM-7とF-BASICに触っていた経験が、のちにFM-TWONSを購入した時に生きてくるのですが...それもまた別の記事を用意します。

 当時の御三家(後の8BIT御三家)はPC-8801シリーズとFM-7/8シリーズ。そしてX1。家庭用の「パソコン」として...「ホビーパソコン」という今はないカテゴリーにおいて少年たちに夢を与えた存在です。

 富士通のパソコン事業の大きな原動力となったFM-8からの系譜。その中でもホビー用途で名を知られたFM-7。
 今となっては思いでの彼方の名機たち。

 あまりマニアックなところには触れず今後も紹介していければと思います。