CPUにちょっとでも詳しい人ならばAMDのFUSIONを覚えているか? と聞けばうなずいてくれるはずだ。
かつてAMDがATiを買収たすぐ後から語られはじめた製品であり、今の今まで姿が見えなかった。霧の向こうの「CPU+GPU」の商品。それがFUSION。
語られた当初の夢はとてもすばらしいもので...
AMDの高速なCPUとATiのリッチなGPUコアを融合(そう、FUSIONだ)させたもの。安価で消費電力も少なくなり、ノートパソコンなどにも最適解となるはずだ...そう言われていた。
だが、その姿はずっと霧の中だった。
もちろん情報は何度もリークされたし、専門サイトでもさかんに情報が出てはいたけれど「製品」として発表されるのにはずいぶんと時間がかかってしまった。AMDがATiを買収したのは2006年。そう、もう5年近くの時間が経ってしまっている。
その間にライバルのインテルはコンセプト的に同等な商品を一足お先に投入してきた。今現在の主力商品であるi5やi3といったCPU。その中にはそれなりに使えるGPUが搭載されている。もちろんゲーム用途としてみればそんなに満足行く性能じゃないかもしれないが、今までのチップセット内蔵GPUに比べたら遙かに強力で魅力的だと思う。それは、以前の記事にも連作として書いたりした。安価なPCとして見たらi3の性能はかなりの実力派であり、内蔵GPUだって十分に魅力ある。
ではAMDは後手に回ってしまったのだろうか?
これは微妙で難しい問題かもしれない。個人の感想で言うなら「否」。遅くはあったけれど、決して後手には回っていないと思う。
話をしよう。少し前の話だ。
今の主力のiシリーズではなく...そう、その前の主役Core2Duoが産声をあげるさらにほんの少し前のことだ。
AMDはあの時も先進的なCPUをさかんに宣伝していたが、実際の製品を送り出すのに手間取っていた。「Athlon64x2」...ネイティヴなデュアルコアCPUであり、実際にその性能はとても高いものだった。しかし、開発にも製品化にも製造にも時間がかかってしまい、同じようなコンセプトのCPUをINTELに先んじられてしまった。
Pentium4を2つ。同じCPUパッケージの上に乗せたモンスター。
「PentiumD」
今でこそ消費電力と発熱のことを言われ、馬鹿にされることも多いCPUだけれど、その2点に目をつぶれば今でも現役のCPUとして戦える戦闘力がある。考えてみればわかる話だ。Pentium4のプレスコットコア、それも3G以上のクロックを持っていればWindowsXPを使って何かするのにそう不足することはなかった。それがデュアルで動作しているのだから。
ある意味でCore2Duoよりも優れた点だってある。けれど、それは真のネイティブデュアルCPUではなく。間に合わせて作った、対抗商品。性能はよかったけれど、やっぱり発熱等はどうにもならず。
Coreduoを経て、Core2Duoが出た時にその主役の座をあっさりと受け渡して歴史の闇に消えていった、中継ぎの名手。(むだに熱い熱血漢でもあったが)
対してAMDは遅れて投入したAthlon64x2で一気に巻き返しをはかる。今みても(初期生産物はともかく)特に文句を言うべきところのないとてもよく出来たCPUだった。ソケット939からAM2への移行期もこのCPUが力を発揮している。(この939用の製品があるからこそ、ASROCKの変態マザーが煌びやかな光を放つのだけれど、それは別の話)
あの時も製品としての投入はAMDの方が遅かったけれど、後手には回っていなかった。十分にそこから巻き返せたし、実に寿命の長いCPUコアになり、ローエンドに下がってからも十分以上にユーザーに恩恵をもたらしていた。
話を戻そう。
では今回はどうだろうか。CPUとGPUの融合...INTELのiシリーズは現在のところ残念ながら融合した製品ではなく、PentiumDと同じような雰囲気を漂わせている。もちろん、PentiumDの時とは事情が違うけれど。
AMDが今回打ち出しているコンセプトは来年のINTELの本命CPUと言われるSandy Bridge(新しいiシリーズのコア)も採用している。製品としての出来はすこぶるいいものに仕上がっており、INTELが本命視するのもうなずける。
(2010/10/21 記事訂正 Sandy Bridgeの仕様を間違って伝えてました。すみません。情報をいただいた方に感謝を)
戦略的な価格と販売を行うことで、来年のINTELは一気にこのSandy Bridgeを主役にするという。Core2Duoの時と似たような手法を使っているので、たぶんそれはうまくいくと思うし...とてもいいことだ。特に内蔵GPUの性能が上がるのは最高にいいことだと思う。...たとえそれがDirectX10までしか対応してないとしても。
ようやく見えてきた真の「融合」物
AMDが10月19日に台北で公開したLlano・Zacate・Ontario(どれも開発用コードネーム)はようやく霧の向こうから現れたAMDの「FUSION」の成果物だ。ここまで登場が遅れたのにはそれなりに訳もあるのだろうけれど(何度も挫折し、何度も製品化がキャンセルされたのは有名な話)、かつて語られた夢がようやく現実のものとして登場する。
それがどのようなものかは、PC WATCHの尊敬してやまないライター笠原一輝さんのユビキタス情報局辺りを読むとわかりやすい。CPUとGPUの融合はデスクトップよりもノートPCに対して効果が大きい(デスクトップならば後付けで強力なCPUが増設出来るし、消費電力もある程度までは無視出来る)こともあり、メインターゲットはノートPC市場となる。
Ontarioがネットブック(INTELで言えばAtom)、Zacateの方はCULVノート(最近このブログでも紹介している安価なノートPC系列)向けと言われているが、実際に製品が出てくると意外な使い方も出てくるかもしれない。最初に登場すると言われているのがLlanoなので、まずは発売を楽しみに待ちたい。デスクトップ向けもおそらくこのコアを使ってくると思う(CPUコアはK10コアが基本だと思うので性能は折り紙付きだ)。
明確にINTELに対してAMDが上だといえるのはやはり内蔵するGPUの性能。これはチップセット内蔵のGPUの時と変わらない構図で、あきらかにAMDの方が性能では上のものを投入してきている部分。
対するCPUコアに関しては...実は個人的にはあまり重要視してなかったりする。デュアルコアであれば、後はクロックが気になるぐらいで、性能に関してはたぶん十分以上だろうと言えるから(それはINTELも同様。Atomはコンセプトが違うけれど、CULV対象のCPUはやはり十分以上の性能をもっている)。
真の融合物を名乗るだけあって、かつてのAthlon64x2を思い出させる製品のようだ。実際のベンチマークや使用感が出てきてからの方が評価はいいのだろうけれど、わくわくしてくるような売り文句は十分にそろっている。
なにより、GPGPUを本格的に使おうとするならある程度以上の性能のGPUがCPUに統合されているのは実にいいことだ。(ハイエンドを求める人はここでコストをケチってはいけない。高い値段のCPUには性能を上げる方向の製品があり、強力なGPUと組み合わせられるのはAMDもINTELも同様なのだから)
今のトレンドはなんでもかんでもGPUのパワーを使おうとするあまり???なことになっている気がするけれど、少なくとも次のIE(インターネットエクスプローラー9)辺りからはブラウザもGPUを活用してくるという。Windows7自身、画面描画にはDirectXを使用していたりするので、積極的にOS側から利用しようとしている流れはしばらく変わらないと思う。
DirectX10(あるいは10.1かもしれないし、ドライバの改良によって11まで対応出来るのかもしれないが)までしか対応していないと言われるINTELの次期CPUもそうだけれど、「最初からその性能がある」前提でないと機能が追加出来ないわけで、GPUが内蔵されることのメリットのひとつにもなっている。
だいたいパソコンおたくでも無い限りはメーカー製の内蔵GPU搭載型PCなんかを買うわけだから、そこに最初からある程度の性能があるとわかっていれば、積極的にそれを活用していこうとアプリを進化させようという気にもなる。
長い...実に長い間待たされただけの「甲斐」はある。
高性能だけを求める人には実際興味がない製品かもしれない。けれど、低価格である程度の性能がほしい人。ノートPCにもある程度の性能を欲する人。そんな人には、遅れてきたAMDの「本命」はとても魅力的だと思う。
また、ゲームにおいてもある程度以上の解像度は厳しいと思うけれど...DirextX11対応のゲームが遊べるのは魅力的だ。DirectX11対応のゲームはこれからそれなりの数出てくるであろうし、AMDは今回のDirectx11では開発のリファレンスボードに選ばれているので(というかそもそもnvidiaが製品投入してくるのが遅かっただけなのかもしれないが)、その部分ではある程度の安心感もある。
高性能を求めてやまない人はまったく見なくていい。自作派なら予算内でほしい性能に資金を割り当てるだけだ。
そしてこれはINTELがCore2Duoを投入してきたように、Sandy Bridgeの後継がDirectX11に対応してくるまでは、AMDのアドバンテージとなると思う(ただ、INTELはパラノイアなのでものすごいスピードでGPUだけDirectX11に対応してくることもあるかもしれないが)。
長い間幻想扱いされてきたFUSIONは当初計画されたものとはだいぶ形を変えてしまったけれど、ユーザーにもたらす恩恵はたぶん発表時に抱いた夢と同じだけのものがあると思う。
日本のメーカーが採用するかはわからないが、ネットブックやCULVノートは海外勢も強くなってきた。
案外身近で試せるようになるのは早いかもしれない。
それがとてもとても待ち遠しい今日このごろ。
※
AMDはしきりにDirectX11対応をアピールしているが、むしろここで不安なのはINTEL側のドライバー開発能力だったりする。今回DirectX11に対応していないという噂が出た時に最初に思ったのは「また965と同じことやらかしたか?」だった。あの時はハードは対応しているのにソフトが間に合わない...という状況だった。今回も同じようなことになったので、とりあえず対応出来るところまで搭載して発表したんじゃないかと疑ったぐらい。
AMDもドライバーではややトラブルを起こしがちなので(HDMIのスケーリングがらみとか修正されるまでに時間がかかりすぎです...)人のことは言えないかもですが。
nvidiaがCUDAに活路を見いだしたのは、ある意味正解だったのかもしれない。あるいはARMを選択したことも。x86市場のローエンドを含む「おいしいところ」はCPUとセット化されていくとCPUコアをもたないnvidiaはハイエンド路線に行く方が利益も大きいし安定する。かつてAMDがサーバー市場を欲したように。HPC市場に活路を見いだす。
ローエンドのノートPCですら、DirectX11に対応し...ある程度以上のスペックをもっているとなると、PC市場はがらっと変わると思う。それはたぶん、この製品が出て...しばらくたってからかな、と。INTELが対抗値下げを2回ぐらいした辺りからかな...
いつか、マザーボードにはCPUと多少のチップ、後はコネクタしかなくなってしまうかもしれないな...という夢想をたまに抱いてしまう。いつか...きっと。
しかし本当に...長い間待たされたなぁ...