酔っ払いの与太話(電子出版物編)

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 先日...といっても先月のことなんですが、知人の出版社関係の人と食事をしながら雑談に興じる時間がありました。おいしい四川料理に舌鼓を打ちつつだらだらととりとめもない話をしていたんですが...

 その中で「なんで電子出版は日本だとうまくいかないんかねー」という話がありまして。

 今現在がうまくいってるかどうかは関係者でもないのでよくわからないんですが、意見を求められましたので「高いからだよ」と言いました。すると「いや普通の書籍と同じ値段じゃない?」と返されましたので「だから高いんだよ」...と。

 あくまで私の持論でしかないと前置きした上で...酔っぱらい達の会話を再現してみました。

※なるべく忠実に再現しようとしたため、私が何言ってるのかいまいちわからないかも...結構酔ってましたんで...今回の記事は相手の人が取っていた録音を元に再構成しています。読み物っぽくなるように細部を整えましたが内容はおおむね変わらず。酔っ払いの戯言ですので、不快になる方もいるかもしれないので読む前にご注意を。

みやび(以下 み)「まず日本の出版社は電子出版だろうとなんだろうと『横並び』で価格をつけたがるじゃない。消費者からしてみたらメリットが「本屋にいかなくても済む」ことと「品切れがない」ぐらいだけどさ。
 逆にデメリットに「電子ブックリーダーがないと読めない」「へたすると出版社ごとにそのソフトが違う」「あげくハードやソフトの種類によって見え方や扱いやすさまで変わってしまう」とかさ。そんで価格一緒かよってね」

み「古本なんかもないしさ。「値下げ」がまったく期待出来ないし」

これが大きいんだわ。

発売日からある程度過ぎたら安くなる。これは消費者側に根強くつきまとう心理だろ。ゲームだろうがなんだろうが日が過ぎたら安くなってる店がある。

ところが電子出版にはそれがねぇ。

また、いらなくなったからと他人に譲ることも出来ねぇ。

所有する喜びもない。

 これで同じ価格つけて僕たち頑張ってます買ってください...なんて言われて買うかよ。たださぇ読むために投資かかってんだぜ? iPadやらガラパコズやらさ。年配の人結構買ってるからなガラパゴス...」

友人(以下 友)「ならどうしたら売れるよ?」

み「んー...でも単純な値下げじやだめだな。

まず一般書籍に比べて電子出版物はコストが安いと消費者には思われている。作ってる側からしたらそんなことはなくてもだ。紙も製本もない。電子データは安くみられる。流通コストもないと見られがちだ」

友「いや、そんなことはないんだが...」

み「あくまでユーザー側からだ。見えないからな、背後の製作の事情なんて。まして利権に群がる悪いくせが出てるのは私でも聞いてる。囲い込みを狙いすぎたり出版社同士のエゴが出て普及より独自性にばかり目が行ってる。一般の書籍と同じ儲けがなければやりたくもない...そんな思惑が見え隠れだ。それじゃあ普及のしようもねぇ」

友「むう」

み「ユーザーっていうか消費者はわがままだ。どうせなら全部タダにしろ。そのぐらいの意識はどっかある。その上で『金を払って手に入れた喜び』とか『誰よりも早く読みたい』だとか様々な欲求を積み重ねて自分を納得させて金を払ってる部分もあるんじゃないかな。

ラノベや漫画ならイラストを所有するのも含めてな。本棚に綺麗に並んだコレクションを見てにやつくのも欲求っちゃ欲求だし」

友「言いたい放題だなぁ」

み「酔ってるしなー。買う側が作る側のことなんか考えて買うかよ。せいぜい作家のところの収入が増えたらいいな程度だ。出版社なんざまったく眼中にない。定価を上げてる敵の一部勢力ぐらいのもんだろ。昔と違って出版社ごとの特色も薄いしな」

み「それと、目当ての本が探しづらい。本屋でさえ店員に聞いてアドバイス受けて買ったりするんだ。漫画や小説なら目当てもあろうがそうでないもんはどの出版社のどの本がいいのかわからん。

本屋の衰退が言われて久しいが売れてる本屋はそこの辺りしっかりしてるぞ?店員がPOPつけたりしてアピールしてるのも似たようなもんで『お、これがいいのかお勧めなのか』って思えりゃ財布のひもも開くことがあるんじゃないか?」

友「あーちょっとは耳に痛い部分があるか」

み「これがネットならマーケットでお勧めが表示されるしメールもくる。そもそも探しやすいのしか普及しねぇ。Appleのマーケットがなんで強いのか考えてみたか?

 んでそれを踏まえたら...一般の本屋に並ぶのと同じ値段内容じゃあだめだ。値段は基本安い。少しだけでも安い。その上で定期的にセールをやる」

友「セール?」

み「全巻そろって通常5400円のところ期間限定で4980円。古いものなら3980円。まぁそんなもんだ。まとめ買いしやすいのも電子書籍のいいところだ。かさばらないからな。そしてお得感があれば『最初の数巻だけ買って続きは買わない』という行動を抑止する一助にもなるかもしれんない。なんか前そんなこと言ってたろ」

友「ああ、まぁなぁ。新人さんの作品だとそれ強いんだよ。最初にどかんと売れないと続きも書かせてあげられなくてな...」

み「それと...専門書の充実だ。なんだかんだ言って専門書ってのは高い。需要が薄いからな。

そのうえ本屋にもない。

これを逆手にとって『どんな専門書があるのか解説する無料電子雑誌』なんかを立ち上げてそこから1クリックで飼えるようにするとかな。別にIT系でなくても専門書はたくさん出てるが、本屋で場所をそうは裂いてもらえないからな。少ない需要を確実に拾えよ」

友「無料か...」

み「抵抗あるのか? たとえが悪いかもしれんけど...こいつは営業で尊敬する先輩の受け売りなんだが...
『媚びを隠して慣らして騙せ』
ってやり方だってあの人は言ってた。どうも口が悪いしうさんくさい人だけどさ(笑)
...女を騙す方法の応用らしいが、風俗の募集なんかは無料の本をあちこちにばらまけと。高収入を歌い、夜の仕事が暗いものではなく明るく楽しいものであるかのように。読む側に媚びつつ、現実とは違った感想を抱かせる。
これを応用して、広告に『慣れさせて』釣るんだと。

下手な鉄砲も数打ちゃ当たるというが、その精度を高めるために読む側を少しずつそうした餌になれさせて抵抗感をなくし、最終的には自分から申し込ませる。それがさも普通のことであるように
さらに突っ込んでやるなら...通販雑誌なんかも多かれ少なかれとってる方法だけど、それをさらに精神的な面から揺さぶるようにして『買わないと損だな』と思わせる」

友「よくわからんな」

み「広告だよ。広告。お前ら広告はもらうもんだと思ってるだろうが、これからは本を売るのに...出版物を売るのに自分達で広告を打たなきゃならん時代になると思うぞ。なんだかとても苦手そうだけどな。

消費者に買わなきゃ損だとか、今流行ってるから読んでおくかって思わせてな。

心理を揺さぶれよ。
その上で『押しつけでない情報』にすることだ。お前らは『売りたいもの』ばかりを前面に押し出す。出版社としてこれを売るんだという姿勢だな。企業として当たり前だけどこいつがネットとか通販だと鼻につきやすい。だから媚びを隠して慣らして騙すのさ。

カタログに混ぜる。その人がほしがってる本達の中に忍ばせる。違和感をなくし、なんだかよく見るな流行ってるのかなと思わせる。
カタログっても無料で...しかも特典がついてたりすると人間『ふーんダウンロードしとこうかな』と思う部分がある。むしろ一歩進めて定期的に中身が変わるのを前提にしてしまえ。載ってる内容もある程度の期間で変化させるように」

友「変化?」

み「ネットの広告だって表示するたび違うもんが出るだろう。それと同じだ。その人が何を買っているのか、どんなものが好きなのか。それに併せて本を紹介する。
紹介文も雑誌のあおり文句のように年中変えるんだ。目新しさを出していく。
さっきの例えで風俗の無料本を出したけど、あれも同じ店の紹介や職業の紹介は使い回しとはいえ文面変えてくる。でないと次に手をとってもらえない。
得だよ、稼げるよってのを前面に押し出すだけじゃあ読んではもらえんのだそうな。まぁ全部が全部そうというわけでもないだろうが」

友「相変わらずわけのわからんところの話を知っているなぁ」

み「ほっとけ。昔からだ。なんにしろ価格面でのメリットを含めて『電子書籍ならでは!』ってのを打ち出していかないとだめだろうな。
アマゾンはさっきの広告部分でアドバンテージがある。どんな本が好きかどんなものに興味があるか。そんなデータは購買履歴からたどれる。なら、電子出版でもそうした広告をユーザーに届けるだろうよ。今はメールでやってるようだが。
キンドルがこぇーとか日本は大丈夫だとかハードの話しかあんたから聞いたことはないが...
私はそれよりもアマゾンが持つ膨大なユーザー情報と併せて低価格なハードが用意され...探しづらかったものが簡単に探せる。今アマゾンが持つそうした仕組みがわりとそのまま応用出来ることが怖いと思うよ」


み「なんせ私が今言ったことはAmazonにしてみりゃ『明日からやろうと思えばすぐ出来る』ことばかりだからな。

出版社はITに弱いっていうが、逆にITに強いところが本屋のノウハウ取り入れて...自ら出版を手がけるまでになったとして。一ツ橋やらなんやらの出版界は生きていけるのかね?」

友「生きのびるさ。本はなくならない。読む人が減ってもな。書く人も減らさせない。読み物ってのは人類の宝なんだよ。俺なんかその思いで今の仕事してんだから」

み「なら、今度は売るにはどうしたらいいかマーケティングも含めて...昔ながらのやり方と併存させつつ模索するんだな。んで機会があったらなんか書かせて(笑)」

友「いや、お前が書くとなんかAmazonよいしょの本が出来そうだからだめ(笑) ブログ見たけど名前からしてもうね」

み「あ、そんなことナイヨ、ほんとほんと(汗)」

 

 ...いかんせん紹興酒を飲み過ぎてて言ってることが支離滅裂な私の言葉に、しかし彼は真剣な目をして聞いてくれました。未曾有の災害により出版物が出すに出せない状態なんだよと。人気作家優先で新人は出版させてもらえないことすら起きそうだと。

 だから電子出版ならそうした部分で会社もOKを出しやすい...今後の作家達のためにもなんとかしたい。彼の本音はどうもそこみたいなんですが...そうした考えは会社の偉い人にはなかなか受け入れられないようで。若い芽育てるようり目先の売り上げ実績。出世の種。まぁそんなもんだと言ってました。
あまり強い意見を言いすぎると閑職に回させることもあるようなので、まるで官僚社会だねぇ...なんて苦笑もしましたが。

 いろいろ言われる出版の世界ですが、真剣に取り組んで...未来を見て動いている若い人達(っても中年ですが)がいるのは心強い限りです。カセットテープがCDに変わったようには本は変わらない。手に持って旅するように、手許に置いておきたいものですし。

 けれど、かさばる本をなんとかしたい。そうした欲求を補完しつつ浸透させていけば...
 電子書籍にはまだまだチャンスがあると思うのです。

 酔った状態での会話から記事を起こしましたので、内容が支離滅裂で同じようなことを何度か言ってたりとまぁひどいもんでしたが...お互い酔った上でのざっくばらんな会話をひとつ晒してみました。

 ただ酔ってない状態の本音をいえば...

 透けて見える欲望が強すぎて日本の出版社が発表する施策はどうも失敗しそうな臭いが強すぎる気がします(^^;

 出版に限らず、ですけれど。放送とかも含めて...

 

 

 そうして考えるとAmazonとかGoogleの強さが怖くなってくるのですが、私なんかはもうこの2つがないと生きて行けそうにないので...最近はAmazonの奴隷とかGoogleの手下とか自分で言っちゃってたりします。とほほ。