MZというシリーズの中でもホビーパソコンとして名を残す2台巨頭。
MZ-700とMZ-1500。
いまだ熱狂的なファンを持つこの2つの機種は...MZシリーズの異端児であり強烈な個性をもった「並び立つもののない」機種でした。いや...「後継者を生み出せなかった」機種でもあったかもしれません。
その強烈な個性ゆえに...いまだ熱烈なファンを持ちながら...その名前に悲哀をまとった機種として名を残しています。
今回はリクエストがあったMZ-700とMZ-1500を記事にしてみました。
MZ-700とはどんな機種か。
一言では言い表せないんですが...私の中では「最もユーザーに愛されたMZ」だと思えます。
MZシリーズはたくさんの機種があります。私が大好きなMZ-2000もありますしMZ-80B/Kという初期の名機もあります。しかしこの700だけは「別格」にユーザーの愛情を注がれた機種なんじゃないかと思います。
なんといっても2012年現在でいまだにいじってるユーザーがいるわけで。しかも未だ新しい発見がある。当時出来なかったことが今出来るようになるというのはPC-6001なんかもそうですが...熱心なファンがいてこそです。
そのハードスペックはほぼMZ-80Kのバージョンアップ版と言ってよかったんじゃないでしょうか。カラーになって安くなって遊びやすくなったMZ。それがゆえに今までのプログラム資産がある程度流用出来たという。
その上で恐らくは初めて「ホビーに使える」MZと言えたんじゃないかな...と。
学校でMZ-80B/Kを触った学生が自宅でそのノウハウを発揮できるというある意味理想形なコンピューターでした(工業高校には結構MZありましたしね)。
最大の特徴は搭載された「プロッタプリンター」の存在。オプションではありましたが標準搭載モデルはなかなか見かけない。
これを標準で内蔵した機種は後にも先にもこいつぐらいなんじゃないか? と言われるぐらいレアな機能です(正確にはペンプロッター搭載の機種としてレアというべきでしょうか)。
どんなものかというと...イメージ的にはボールペンで図形を書いてくれるプリンターとでも言えばいいんでしょうか。その後普及するどのプリンターとも違うベクトルの製品です。(図面などを引くのには適したプリンターですね)
ドットプリンター等とは違いなめらかな曲線を描くことも出来るこのペンプリンター。
本来は恐ろしく高い製品ばかりが市場に存在していた時代だったんですが、ある程度の簡易化をしたとはいえホビー機に搭載したSHARPはやはり目の付け所が違う。
4色のボールペンヘッドが織りなす図形表現は素晴らしかった。(やや紙が狭かったとしても)
ディスプレイはMZ初の分離型。それまではディスプレイ一体型しかなかったMZの中でとてつもなく野心的な機種だったのは間違いないでしょう。低価格にするための施策であったとしてもデザイン面で貢献したのは確かだと思います。
この路線は以後の低価格MZの基本路線となったかと。
wikiには価格を下げるための妥協の産物と言われたビデオ出力。でもホビーパソコンとしては必須だったこの能力。元祖のひとつはこのMZ-700。
特筆すべきは「RF出力」を持っていたこと。これを搭載したパソコンもまた珍しかった。(変換アダプタは見ましたが...)
本体の大きさも含めて「他人の家にもっていって自慢できるパソコン」の元祖なのは間違いないでしょう。相手先にモニタがあるかどうかは気にしなくていい。テレビがあればいいんですから。
キーボードは...残念ながら私にとっては大いに鬼門なキーボードでした。
カナ配列が...JIS配列だったらよかったのに...とほほ。
とはいえワープロがあるわけでなく普通に使う分には結構使いやすい。
結構本格的なキータッチも含めてユーザーにはそれなりに受け入れられたかと。
データレコーダーなしで79800円。レコーダー搭載で89800という価格はホビーパソコンの先駆けとしては結構頑張ってる価格だと思います。
当時ユーザーが結構周りにいましたし。
プロッタプリンター搭載モデルは128000円。近所の電気屋で98000円で売られた記憶がありますので、他のモデルもそれなりに値引き入った時期があったのかも。
単音とはいえ音が鳴らせました。スピーカーも搭載。今考えればしょぼいのかもしれませんが当時は鳴らすだけでも楽しかったのです。
ジョイスティックをつければゲームも遊べた(ベーシックからも制御出来たような)。MZが初めて「ホビー用途」を意識して生み出した機種でした。
ですが...時代にあった機種だったかというと難しい。
ライバル機種たちはグラフィックス機能を売りとするなかでキャラクターのみのグラフィックスは(高速であったとしても)やはり見栄えが悪かった。
周辺機器は出ないし。
どうにも安いだけのMZ。そんなイメージがついて周り。
少しずつ...少しずつユーザーが離れて行きました。
そんな状況に一石を投じ...「こんな手段もあったのか!」と思わせたのがタイニーゼビウス。市販ソフトではなくOh! MZに掲載されたプログラム。自分で打ち込んで遊ぶゲームでしたが、その衝撃は忘れません。
画面は6001よりもなお粗かったかもしれません。
BGMも単音で寂しかったかもしれません。
しかし打ち込んで遊んだ人間だけが知る世界ですが...間違いなくそこには「ゼビウス」がいたのです。
その動きは紛れもなくゼビウス。
画面は似てなくても動きが間違いなくゼビウス。
画面はともかくキャラクターの配置や動きは間違いなく「ゼビウス」。
遊ぶ側からしたら想像力を掻き立てればいいだけのこと。
画面がいかに綺麗でも動きがしょぼいと遊ぶ側は微妙な顔になるものです。
私は6001のタイニーゼビウスを死ぬほどやり込みましたが、どちらがオリジナルに近い?と言われたらこのMZ-700を指さすでしょう。当時のゲームに飢えた子どもたちにはキャラクター表示で動いていた「それ」は間違いなくゼビウスだったのです。
このプログラムの登場でMZ-700のユーザー達は次のステージへ。作る楽しみの先に「こういうのもあるのか!」という展望が示されたのは大きかった。まだ持ってた人限定ですけれど...
その先に登場したのが2年後に同じくOh!MZに掲載された「スペースハリヤー」。
登場時「それは無茶だ」と誰もが思ったんですが...友人宅で遊んでみたら...
「間違いない。これはスペースハリアーだ」
遊んで面白い。とても重要なことですが、面白かった。
画面は荒いしキャラクターだって想像力と元の姿を知らないとちょっと区別が難しい。しかし動きは間違いなくスペースハリアーであり...早い動作はこのクラスのホビー機の常識を破っていました。
着目点とプログラムの技術で楽しさを見出す。
MZユーザーの底力を見た瞬間でした。
とはいえ...MZ-700のゼビウスはすでにMZ-1500が登場してからですのでユーザーも離れていましたし...スペースハリアーに関してはもうMZ-700を持ってる人も少ない頃の作品。(1988年ですからX68000のACEが出てたりしてる頃なんで...
ある意味執念の作品だったのかなぁ...なんて今でも思っています。
Windowsも2.1とか出てましたし(誰も触ったことないでしょうけれど)。
EPSONがNECと互換機で火花を散らしX68000がホビーユーザーを魅了していた頃。
そんな時代でもMZ-700は熱烈なファンと共に歩みを続けていたという。
最初に熱烈なファンを持ちながらも悲哀をまとったと書いたのはこの辺りの流れをリアルに見ていたからだったりします。プロッタももう動かない個体がごろごろしてましたしね...それでもみんな遊んでいた。
その後も700はユーザーに愛され続け...実は今でも愛され続けています。さすがに実機で遊んでる人は少ないんですがエミュレーターも存在しますのでやろうと思えば今から参戦も可能。
Z80Aとキャラクターベースの環境というのは表現力を縛られた状態な訳ですが...まぁわかる人はわかるんですけど「燃える」んですよね。そういう縛りがあった方が(笑)
疑似的とはいえグラフィックス表示を可能にしたユーザーがいたりします。もうなんというか...すごいの一言。
未だにニコニコ動画などで新作動画があがるのでオールドホビーパソコンの中では最も愛された機種なんじゃないでしょうか。
MZ-1500は...MZ-700の後継機と言われています。
グラフィックスとサウンドを実装した「MZで最初で最後のまともなホビーパソコン」と言っていいでしょう(スーパーMZとかでゲームも遊べるわけですがあれをホビーパソコンというのは...どうだろう)。
最大の特徴は...なんといっても「クイックディスク」です。
触れ込みとしては「フロッピーは高い。そこで安くて高速な記憶装置登場!これからはクイックディスクだ!」という感じでして。
実際のところランダムアクセスをせずシーケンシャルアクセスであれば売り文句通りの製品だったと思います。早いし安い。メモリ内にデータをがーっと読んで運用する用途なら使い勝手もよかったかと。
実際大量生産されればクイックディスクはそれなりに安価でした。ドライブも簡易なものですので結構安価に作れたかと。
ですが...
この最大の特徴のクイックディスクもまた悲哀に満ちた運命をたどります。まぁそれについては後述として。
強化された点で特筆すべきはもうひとつ。サウンドの強化。
なんとステレオ音源を搭載しています。
PSGとも違った趣のある音がしました。まぁ本体スピーカーがモノラルでしたのでソフトもモノラル6音ばっかりだったんですが。独特の音色が印象に残っています。
画面の強化も独特でした。
PCGの搭載は数々のゲームの礎となりましたしPCGを束ねてCG画面とする発想がMZ-700にはなかったグラフィックスの実装へとつながっています。PCGの概念は簡単にはいえませんが、ゲーム機に実装されたスプライト機能の元祖と言っていい機能ではないでしょうか。高速にキャラクターを書き換えつつ動き回らせるなんて真似もPCGならではでしたし。
後に強力なスプライト機能を搭載したX68000を出すシャープですから...ずーっとゲーム機を作りたかったんでしょうか...
MZ-700の直系として互換性も維持。
BASICレベルならほぼ動いたような記憶が(少なくともゼビウスは動いた)。
アセンブラレベルでも友人が苦も無く700から移籍出来ていたので移植性は高かったんだろうと思います。
MZシリーズでは例外的に様々な会社からゲームソフトが発売されています。
ナムコのゲームとか出てて個人的には「ぐぬぬぬ」となってた時代です。
結構いい出来だったんですよね...これがまた。
発売は1984年。アメリカでは初代マッキントッシュが注目されてた頃。日本だと...FM-11とかありましたね(笑)
ライバルとしては「走るS1」ことS1やFM77(AVではない)が出ています。
このブログでも紹介したSMC-777やX1(この当時はたぶんCシリーズとか初代Turboとか)も市場をにぎわせていました。NECがMrPCこと6601MKⅡSRを発売しています。
ライバルのなんと多いことか。
そう。MZ-1500は群雄割拠するホビーパソコンの中に投入された訳ですが...
ぶっちゃけ同じ会社からX1turboとか出ちゃってますし8801シリーズやFM77シリーズと戦うのはしんどかった。
そこにもってきてクイックディスクの遅さもネックになってきて...製造だけはずーっと続けられていたんですけどね。MZ-1500とてしてではなく...
あれはMZ-1500の発売から2年後ぐらいのこと。
家庭用ゲーム機にひとつのオプションハードが発売されました。
任天堂ファミリーコンピューターディスクシステム。
あの時代に500円でゲームが書き換えとはいえ手に入る。
それはそれはもう子供達にとってはうれしい製品でした。
そのディスクシステム。有名な話ですが、中身はクイックディスク。
ただでさえ流通量が減っていたクイックディスクがにわかに脚光を浴びました...が。不正コピーのネタ元にされてしまっては。
(まぁほとんど流通してなかったので、コピーツールと一緒に不正規な?ディスクが販売されていたりと謎な現象が起きましたが)
そもそも流通が減っていたクイックディスクはここで終焉を迎えたかと。不正コピー等抜きにしても...もうMZ-1500という機種自体が市場から消えかけていたのではないでしょうか。
そう。
PCGを駆使したグラフィックスやステレオサウンドなど特筆すべき点が多い特殊なパソコンでしたが...ライバルが多すぎた。
ましてMSXやファミコン時代の到来により作る楽しみは主流ではなくなって行き...同じSHARPならX1が選ばれてしまったりとなんというか...悲しい時代でした。
MZのホビーパソコンの系列はこの700と1500を最後に途絶えたと私は思っています。
1500も愛されたパソコンでしたが700ほど熱心なユーザーには恵まれなかった記憶があります。
クイックディスクの搭載や発売されたいくつかのゲームセンターからの移植ゲームたち。
時代がもう「遊びたければ買う」時代に移行しているのが見て取れる。
MSXほど手軽で安価でもなく。ファミコンほど特化していない。8801シリーズやX1シリーズと戦うにはやや力が不足していた。
意欲的で特異なホビーパソコンとして登場した2つの機種は時代の波の中に消えていきます。熱心なユーザーをくすぶらせたまま...
その後目立った動きがなかったユーザー達も動画投稿サイト(youtubeやニコニコ動画等)の隆盛と共に再び輝きを取り戻します。あの時代にたぎらせた思いはいまだ熱い。
6001と共に「現代によみがえるホビーパソコン」の雄としてMZ-700はいまだ現役です。少なくともあの時代に「作る楽しみ」を得たユーザー達が活躍する限り...
かつてホビーパソコンの時代の流れの中でシャープも挑戦しました。
既存のシリーズとの互換性を持たせながらも独自の魅力を開拓しようとした。
けれど、シャープ社内にホビーパソコンの潮流が2つ存在することは...無理があったのかもしれません。MZはビジネスに。X1こそがホビー機の血統...そんな流れが出来て行ったような...そんな気がします。
NECは当時化け物でしたので、いくらでもシリーズを増やしていましたが(限界はありましたが)、他のメーカーはそこまでいけず。
MZの系譜からのゲーム機は途絶えてしまいます。あえて言うなら最後の花火はMZ-2500。スーパーMZ。けれどあれはホビー機とはいいづらい機種です。愛称通り「すーぱーなMZ」だったんだなぁと。今にして思ったりも。
もはや動く実機もほぼなくなってきて。エミュレーターの世界を中心としてですが...未だこの2つの機種を愛するおっさん達がいます。今から覚えるとなると8bitCPUの勉強にはちょうどいいのかもしれません。
あれからもう30年近い年が流れたというのに、Z80も6809もいまだ「現役」のCPUですから。アセンブラで何か組むならその練習や言語習得にはいいかも?(16進数で直接打ち込む人もいまどきいないでしょうが...)
強烈な個性を持ちながらその個性を生かし切れず。生みの親の支援も少ないまま...2つの機種は時代の中に消えました。そういう意味ではライバル機種達とは違う歴史を刻んだ機種だと思います。
けれど、ホビーパソコンの歴史の中では強烈な印象を刻んだ「名機」には違いなく。今みても「光る」部分をもった機種達です。そして...いまでも愛され続ける幸せな機種だといえるでしょう。
かつてホビーパソコンと呼ばれた様々な機種がありました。
ファミコンの登場前夜まで続いたパソコンの歴史のひとつ。
ゲームを遊ぶだけではなく「作る」のが当たり前だった時代の名機達。
8bitを中心に発展し...消えて行った「ホビー用途に重き」を置いた機種達。
あまりマニアックなところには触れず今後も様々な機種を紹介していければと思っています。